竜人族の研究者たちの叡智

※注意事項※

・本記事はモンスターハンターライズ:サンブレイク」全編および、一部シリーズ他作品のネタバレを含みますのでご注意ください。
・本記事でのキャラクターや人間関係、世界観の考察に関しては、作中で判明する設定を基にした筆者の推測を含む箇所が多くありますことをご了承ください。
・筆者は2021年12月17日発売の『モンスターハンターライズ 公式設定資料集 百竜災禍秘録』を未読の状態で執筆しております。
 現在または今後公開される公式設定が、本記事での考察内容と明確に異なる(=本記事での考察内容が誤りである)ことがある可能性がありますことをご了承ください。
・本記事の内容は、記事を改訂すべき点が発見された際には、予告なく加筆修正を致します。

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本記事では歴史学者のパサパトと、研究員のバハリの2人について取り上げていきます。彼らは共にエルガドの調査研究を支える柱である優秀な学者であり、また長命な竜人族として、王国史上のさまざまな出来事に立ち会い、見届けてきた人物でもあります。バハリについては以前のフィオレーネの記事でも彼の人となりについていくらか語りましたが、その時には紹介出来なかった台詞もまだまだたくさんありますので、本記事で改めてご紹介していきたいと思います。

 

ーーーー目次ーーーー

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1.謎多き王国史を紐解く歴史学者・パサパト

 

さて、 冒頭でもお話ししたように、パサパトは長命な竜人族の歴史学者であり、この王国のことを大昔から知っている人物です。今回の異変の中核であるメル・ゼナと王国との関係についての歴史的記録や伝承に精通しており、エルガドでもまさしく「生き字引」的な存在として皆から慕われ、調査隊の研究においてもその知見を大いに頼りにされています。

 

しかしながら、彼は主人公に対しては、王国の歴史や王域生物の過去の記録について豊富な知識を持ちながらも、敢えて多くのことを語らない、という姿勢を貫いています。それは彼が決して情報を出し惜しみしているというのではなく、新たな発見を求める一人の歴史学者として、記録に遺されている情報に囚われすぎないようにせよ、という科学的態度、机上の資料だけではなく目の前の自然を相手にするという姿勢をとても大切にしているからです。

 

お前さんも聞いたじゃろう? メル・ゼナに、王域生物を加えた 通称…「王域三公」。

ヤツらが互いにどういう関わりをもっておるのか…おらぬのか、まだまだ分からぬままなのじゃ。

今はわしの昔話なんぞより、お前さん達ハンターの目と耳が頼りじゃろう。

わしも1人の学者として、おもしろい報告を期待しとるぞい? ふぉふぉふぉ。

(マスター★1 パサパト)

 

エルガドの他の誰よりも王国史に詳しいパサパトにとってすらも、今回の異変の真相や過去の王国の出来事との関係は分からないことだらけ。もちろんここでいう「まだまだ分からぬまま」というのは、王国史にほとんど記録が残されておらずあてにならないという意味ではなく、当時の人々によって記録自体は残されていても、現在ほど調査研究の技術が発達していなかった以上は必ずしもその記録が正確かつ事の全容を十分に捉えたものであるとは限らず、その時代を生きた人々のモノを見るレンズによって事実が大きく脚色されていたり、偏った見方になっていたり、時を経る中で内容が部分的に抜け落ちたり変容していたりする可能性も大いにあるゆえに、記録の内容を鵜呑みにするべきではない、という意味で言われている部分も多いでしょう。

 

[前略]
そもそも、「サン」ができる瞬間ですら このわしも直接は目にしておらぬのじゃ。何が起こったかなど、誰も知らぬ。

ましてや何もかも、王国の記録通りとも限るまいよ。

ふぉふぉふぉ。もっともその程度のこと… 提督ならば、とうに思い至っていることじゃろうがのぅ。

(マスター★5シャガルマガラ前 パサパト)

 

その意味ではまさしく今回の調査こそが、歴史学的な新発見の宝庫。王国の異変を解明せんとする此度のエルガドの研究は、今まではおとぎ話や神話、伝承などで語られる内容を中心として、多くの謎や不確実性をはらみつつ構成されてきたメル・ゼナと王国の歴史を、科学的態度によって解体・再解釈するという試みということになります。

 

そしてもちろんそのためには、王国史の研究の出発点となるパサパトの厖大な知識量はやはり不可欠なもの。50年前に王国を襲った疫病や、王国に幾度となく被害を出してきた古龍メル・ゼナについても、彼はそれらの災いを体験している数少ない当事者です。

 

あのとき、王国を襲った疫病か…。よう覚えておるわぃ。今となっても忘れることが叶わぬほどじゃ。

じゃが…あの窮地を救った薬師ならば、いかにも見事な調合をするはずじゃ。メル・ゼナの毒がなんであれ、のぅ。

(マスター★4ライゼクス前 パサパト)

 

作中ではかつての王国の疫病は記録として触れられるのみですが、疫病が蔓延した当時の様子を彼は「忘れたくても忘れられない」ものであったと語ります。この時は薬師のタドリの尽力によって王国は危機から立ち直っているものの、同時期のメル・ゼナの王都襲撃と相俟って、王国の人々に大きく影を落とす出来事であったことは想像に難くありません。

 

それにしても、この時点では疫病の正体はキュリアであるという事実はまだ明らかになってはいないものの、パサパトの最後の一文はどこか含みがあるといいますか、今後の展開を示唆しているような伏線めいた響きがありますね。ひょっとすると彼の手元にある王国史の資料にも、この疫病が普通の毒ではない尋常ならざる性質を持っているということが、断片的に記録されていたのかもしれません。

 

だいぶ脱線した話になりますが、幼体キュリアによる50年前の疫病は、これを共生・使役しているガイアデルムの活動によってもたらされたもので、これはつまるところ一種の古龍災害とも言えるわけですが、古龍は個体の寿命が長い分、こうして何かしらの被害を出すほど活動が活発になる周期もそれなりに長いと考えられますから(百竜夜行の風神雷神も数十年周期でした)、モンハン世界の人間(ヒト)も私たちと同じく数十年程度の寿命であるとすれば、人ひとりが一生涯で古龍災害に出くわす回数というのは、2回あれば多い方というくらいだと思うんですよね(各地を渡り歩いて仕事をするハンター等であればもっと多い場合もあり得ると思いますが)。

 

これに比べて、百年単位の寿命を生きる竜人族は、こうした人類社会を襲う災禍を、一生涯のうちに何度も何度も目にすることになり、そしてそのたびに、未曾有の危機に晒される人々の苦難、或いはそれに立ち向かう人々の姿を思い出に刻んでゆく。長きに渡る王国の歴史は、そこに生きる人々のいのちを見つめてきたパサパトの個人史でもあるんですよね。こういう竜人族にとっての死生観、世界観みたいなのが、ストーリー中で大きく掘り下げられるような作品が今後出てくるといいなぁと個人的には思っています。

 

話を戻しまして、パサパトは今回の異変のカギを握る存在であるメル・ゼナについても、過去にその姿を目撃したことがあるようです。

 

お前さんらの目の前に現れたメル・ゼナのぅ。わしの知るかつてのあやつとは、違っておったそうじゃな。

あやつがキュリアを従えているのも、それがモンスターの凶暴化を為すのも、どうした理屈があるものやら…。

1つ分かれば、また1つ分からぬことが現れおる…。ことの広がりを思えば、おもしろがってばかりもおられぬかのぅ。

(マスター★4 パサパト)

 

メル・ゼナというモンスターの核心に、大きく迫るような台詞ですね。メル・ゼナは以前現れたときにはキュリアを従えていなかった、というのはMRのストーリー中でも明らかにされており、キュリアを従えているメル・ゼナはその本来の姿ではないらしい、という所までは、この時点でも考察されうることですが、それが具体的にどんな姿なのかということは、ガイアデルム討伐までのストーリーでは特に言及されていません。詳しくはまた記事の後半で触れますが、パサパトの記憶にあるメル・ゼナの真の姿——白銀の鎧を身に纏う騎士、王域の守護者たる原初を刻むメル・ゼナの伏線が、今思えばこの台詞にもあったのだというのはなかなか感慨深いですね。

 

そして、パサパトはメル・ゼナの動向について憂慮しながらも、同時に調査によってもたらされる新発見の一つひとつに対して、歴史学者としての興奮を隠せない様子。このような緊急事態に若干不謹慎なのではないか、と本人も省みてはいますが、新たな事実によって謎が一つ解けると同時にまた別の謎が生まれてくるというこの状況に心を躍らせてしまうのは、研究者の抗いがたいサガなんですよね。

 

ふぉふぉふぉ! やってくれおったわい。重い腰を上げて、王国からはるばるやってきた価値があったというものじゃ。

問題のガランゴルムを直接研究できるなど、これほど貴重な機会もなかろうて。

バハリよりも、わしの方がよほど興奮しているのかもしれぬわい。ふぉふぉふぉ。年甲斐のないことじゃな。

(マスター★3 パサパト)

 

王域生物の生身のサンプルに、目を輝かせるパサパト。本人は年甲斐もないと自嘲気味ですが、自分の専門分野にいつまでも若々しい気持ちでいられるというのは、素敵なことだと思います。

 

それに加えて、調査対象のモンスターを詳しく研究するためには、そのモンスターの標本を入手できることが最良の条件となりますが、モンスターの標本を用意するためには、そのモンスターを狩猟できる実力を持つハンターの存在が欠かせません。ハンターと研究者とは持ちつ持たれつの関係であり、ハンターがモンスター研究の成果に大きく支えられているのと同じように、モンスター研究は研究者だけで完結するものではなく、対象が強大なモンスターであればあるほど、それ相応の実力を有するハンターが同時にそこにいなければならない。

 

その意味で、研究者としてもっともエネルギーのある時期に、猛き炎という稀代のハンターの存在が近くにあるバハリのことを、パサパトはちょっと羨ましくも思っていたりします。

 

ふぅむ…よもやキュリアなる生物が関わっておったとはのぅ。これまさしく、捕獲調査のたまものじゃな。

わしが若い頃の王国にも、お前さんのようなハンターがいてくれたら… また格別におもしろかったであろう。

ふぉふぉふぉ。バハリのヤツめが心底うらやましいわぃ。

(マスター★3イソネミクニ亜種後)

 

パサパトがバハリくらいの年齢でばりばり研究者をしていた当時においても、腕の立つハンターはいなかったというわけではないでしょうが、ただでさえマスターランクに到達している者すら全ハンターの中でも一握りと言われているモンハン世界において、主人公のようなハンターがどれだけ珍しい存在かということがよく分かります。

 

ある意味では、優秀な研究者と優秀なハンターの両方が揃わなければ学術上のブレイクスルーが起きづらいというのが、モンスター研究という分野が進歩する上での一つの大きな難しさということであると言えますし、そうした出会いをする時機に恵まれるかどうかで、1人の研究者の人生は大きく変わるものだということでもあります。なまじ猛き炎という存在を目にしてしまったために、パサパトが研究者としてそのことを少しだけ惜しく思うのも、その点を踏まえるといっそうよく理解できるような気がするんですよね。

 

とはいえ今のパサパトも、研究者としてはなおも現役であり、王国史に思いを馳せる姿は活気そのもの。主人公の狩りが未だ謎に満ちた王国史の伝承を解き明かしてくれるものになるであろう、と彼は大いに期待を寄せています。

 

メル・ゼナと、キュリアの共生…。王域生物の暴走に疫病…。さらには王国にぽっかりと開いた「サン」…。ふぅむ…。

思いは巡れど…もはやわしがそれを口に出すのも遠慮するべきじゃろうて。事態は今も、生き物のように動いておる。

なればお前さん。この年寄りよりも 今このときをこそ、相手にするべきじゃよ。ほぅれ…ゆけ、ゆけ。ふぉふぉふぉ。

(マスター★5 パサパト)

 

この「生き物のように」という表現、独特でとても良い表現ですよね。メル・ゼナの行動、キュリアの生態、大穴の謎……王国の異変の数々の断片を、生物の内の諸器官を繋ぎ合わせるかのように、有機的な連動を持った一つの生き物にたとえています。彼はこの台詞の以前にも、次のようなことを言っていました。

 

さしたる理由もなく、モンスターがわざわざ生息域を変えることなどなかろうて。

王域生物が及ぼす影響というのもまた… わしらの預かり知れん、抗いきれん 何か大きな営みのひとつなのかのぅ。

(マスター★2 パサパト)

 

自然の大きな営みを「抗いきれぬ」と評するのは、王国の防衛と異変の解決という文脈とはまた方向性を異にする言葉ですが、非常に彼らしい、表層の出来事の奥に大自然の深淵を見通すような台詞ですよね。

 

百年単位で王国の歴史、王域を襲う禍いの痕跡を見届けてきた彼だからこそ、その長い時間のなかに起きた数々の事象を何か統一的な生命であるかのように感じ、王国が相手にしているものがどれほど複雑で巨大なものであるかということを、未だその正体は分からずとも身に沁みてそれを理解している。自分たちはその荒波に対してささやかな抵抗をして、自分たちの生活を守って生きていくということができるのみなのだ(そこには、必ずしもすべての竜人族が一律にそうであるとは限らないとしても、特に自然を重んじる竜人族の考え方も少なからず含まれているやもしれません)。

 

王域生物の異変という災禍に直面する自分たちが、大自然の中でいかに小さな存在であるかということが感じられる――しかもそれは決して人類の無力をただ嘆くものではなく、むしろその自然の大きな営みに接近し、少しでも何がしかの真理に迫ろうとする試みに一つの希望を抱かせてくれるような、そういう言葉でもあるように感じます。

 

ちなみに、モンスターの生態の変化という点については、興味深い台詞がもう一点。

 

むぅ…、"変わり種"が現れおったか。喜ばしい流れではないのじゃが、これもやむを得んことじゃろうて。

せめて、お前さんの調査で何かしら手がかりが得られることを祈っておくとするかのぅ。

(マスター★2緊急前 パサパト)

 

異変に際してカムラの里地域に出現した、ビシュテンゴ亜種についてのコメント。パサパト自身はこれを王域生物の異変の一環として捉えている様子であるのを見るに、亜種や希少種といったモンスターの変異種が発生するいくつかの原因の一つには、「他の強大なモンスター等の影響で元の棲み処を追われ、別の地域に進出せざるを得なくなったモンスターが新たな生息地に適応して生きていくためにその生態を変化させた」というものも含まれているということが(目的論的な解釈ではありますが)、明言という形ではないにせよこの台詞で示されていると考えてよいと思われます。

 

また、パサパト自身は「亜種」「希少種」といった用語を使用せず「変わり種」という言葉を用いているのを見るに、長命な彼はひょっとするとハンターズギルドにおいて「亜種」等の生物分類のカテゴリが正式に確立されその概念が利用されるようになるよりも前から、研究者として活躍していたのではないか……というような推測もできますね。

 

あるいはパサパト自身も、そうした用語が学術研究のために生み出され便宜上使用されているという点については理解をした上で、「原種」「亜種」といった線引きや括りは決して客観的なものではなくあくまでも現在の人類側の視点から見えている面・範囲の自然のありようを記述し整理するための概念に過ぎないのであって、大自然それ自体の真実の姿は、人類の理解の到底及ばぬほどの複雑な様相を持っているものだ……という彼自身の想いを込めて、敢えて「変わり種」という非公式の言葉を用いて遠大な意図を表そうとしたのかもしれません。

 

さて、ここからは最終アップデート後、原初を刻むメル・ゼナについてのお話。先述のとおり、パサパトは過去にもメル・ゼナを目撃したことがあると語っていましたが、その時に彼が見たメル・ゼナは、作中で最初に登場した、キュリアを従えているメル・ゼナとは姿が違っていたとのことでした。このお話の伏線は、サンブレイク最終モンスター「原初を刻むメル・ゼナ」の登場によって回収されることになります。

 

おとぎ話か…。懐かしいのぅ。わしの知るメル・ゼナとはまさにその話の"鬼神"じゃ。

じゃがのう… 存在は知れど、生態は昔から謎だらけでな、そのほとんどが分かっておらん。

大昔に一度だけ遠目で見たが、不覚にもその美しさに目を奪われたことを覚えておるわい。

おっと、美しいとは不謹慎じゃったな。年寄りの戯言じゃ、許せ。ふぉふぉふぉ。

(「滅浄の裁き」クリア前 パサパト)

 

原初を刻むメル・ゼナは王国史にもその生態はほとんど記録が残されていない、謎に包まれたモンスター。現在のエルガドで渦中の存在となっている原初メル・ゼナを「美しい」と評することについて、不謹慎かもしれないとパサパトは言っていますが、憎しみなどではなくそうした感想の方が、自然に対するよりニュートラルな捉え方であるようにも思うんですよね。

 

お前さん、ようやってくれたのぅ。おかげで深淵の悪魔のおとぎ話も真相が判明したわい。

地中のうめき声に怯えていた人々が、大穴に飛来し悪魔を撃退したメル・ゼナの姿を見て、英雄とたたえていたわけじゃな。

じゃが、多くの者にとっては大穴の原因がメル・ゼナとしか思えんかった。誰も悪魔の姿を見ておらんのじゃからな。

それゆえ、年月を経る間にメル・ゼナの圧倒的な強さのみ畏怖をもって語り継がれ、「元凶はメル・ゼナ」となったわけじゃ。

お前さんのおかげで歴史に埋もれた真実を、また一つ知ることができたわい。感謝するぞい、ふぉふぉふぉ。

(「滅浄の裁き」クリア後 パサパト)

 

原初を刻むメル・ゼナの調査を終えて、王国とメル・ゼナとの関係の真相を整理するパサパト。王国の因縁の相手として脅威とみなされてきたメル・ゼナは、本来は王域の守護者であった。「何もかも王国の記録通りとは限らない」とパサパトも言っていたように、歴史は決して単なる客観的な事実の集積ではなく、その当時を生きた人々の主観によって構成され、時間を経る中で一部分が忘れられたり、変容したり、歪められたりしながら語り継がれてゆくもの。神話的、伝承的に語られている遥か昔の歴史については、特にその傾向が強いものです。

 

そんな王国の歴史の中から、メル・ゼナというモンスターの忘れられた一面を掘り起こすことができたのは、研究者のパサパトにとっても、王国の人々にとっても、とても大きな成果であったと言えるでしょう。今回の調査がなければ、メル・ゼナは時に人類の脅威となることもあれども、人間と共存することもできる存在であり、メル・ゼナの活動のおかげで王域を脅かす別の存在から王国が守られてきたという一面もあるということを、王国の人々が知ることはなかった。歴史に埋もれた真実を究明し、自分たちの認識を問い直し、見える世界を広げるということ――このことこそが、彼が長い年月をかけて、そして今もなお心血を注いでいる歴史学の、大きな意義の一つなのではないかと思います。

 

ところで、話は変わりますが、パサパトは歴史学者としてエルガドの調査に参加しているということもあり、同じ研究者であるバハリとはエルガドの中でも特に親交の深い人物で、旧知の仲であるような様子をうかがわせます。またバハリ以外にも薬師のタドリや、カムラの里のカゲロウとも彼は知り合いで、作中の竜人族の登場人物と縁の深い人物なんですよね。

 

まずはバハリ関係について。彼が水没林から救助要請を送ってきたという報せを聞いて、パサパトは次のようにコメントしています。

 

ふぉっ、ふぉっ、ふぉ! 愉快、愉快。あやつらしい話じゃわぃ。

またぞろモンスターの縄張りに深入りでもして、追い立てられておるのじゃろうよ。

いっそ、そのまましばらく放っておいて、懲らしめてやるというのはどうじゃろう? ふぉふぉふぉ。

(マスター★2アンジャナフ前 パサパト)

 

もちろんこのような冗談が言えるのも、パサパトがフィールドワーカーとしてのバハリを高く評価しているからに他なりません。以前の疫病の時にはバハリも既に王国の研究者であったようですから(ちなみにパサパト目線では、人間換算でかなりの年齢であるはずのバハリすらも「若造」らしいです。竜人族の時間感覚ってすごい)、2人は少なくとも50年以来の付き合いということになりますし、バハリは並大抵のことでへばったりしない人物であるということは彼もよく分かっているハズ。

 

まぁ、冗談でも「懲らしめてやるのはどうじゃ」などと言うあたり、パサパトもさすがに少しくらいバハリは自制したほうがいいと思っているフシはあるようですが、何だかんだ相応の成果を手に無事に戻ってくるということについての信頼は厚いようですから、これはこれでよいと思っているのかもしれません。それに、バハリは自分と違ってまだ若く、そしてエネルギッシュに現場を動き回れる研究者ですから、今回のエルガドでの調査のキーマンである彼を見守りたい、というところもあるようですね。

 

つづいて、そんなバハリの旧友である薬師のタドリとのエピソード。タドリは50年前の疫病の際に王国に駆け付け、治療薬の調合を行い王国を窮地から救ったという経歴がありますから、その際にパサパトとも知己を得たということなのでしょう。

 

薬の出来が、ふと気になってなぁ。調合の様子をのぞきに行ったのじゃが、タドリにやんわりと追い出されたわい。

わしが案ずるまでもなかったかのぅ。それにしても、あやつめ…やけに年寄りのあしらいが上手くなりおったわ、ふぉふぉ。

(マスター★4エスピナス後 パサパト)

 

タドリの作業場が気になって、ひょっこり見に行こうとするパサパト、想像するとなんだかかわいらしいですね。作中に登場する今のタドリは、紳士的で落ち着きのある男性という印象ですが、パサパトが知るかつてのタドリ(おそらく50年前?)は、そういう大人の対応みたいなことにはまだ不慣れだった様子。あのタドリにもそのような青さのある時期があったのかと思うと、時間の流れは不思議なものです。

 

それに、王国の疫病以後の50年間という話でいえば、タドリは作中時点より十数年前に故郷であるツキトの都を失い、そこからはずっと放浪の旅を続けています。パサパトがそのツキトの都のことを知っているかどうかは定かではありませんが(とはいえ、歴史学者であれば王国の周辺諸国の事情もある程度は耳にしているでしょうし、或いはバハリやカゲロウ辺りを経由して知っているという可能性も大いにあると思います)、故郷の喪失という痛恨の経験をへてのタドリの人間的変化、というものを想像させてくれるようなセリフ回しになっていますね。

 

続いて、そのタドリの旧友であるカゲロウについて。

 

そうそう、えるがどといえば… ぱさぱと殿とは もうお話しになりましたか?

ぱさぱと殿とは、それがしが行商でえるがどへ行った際に 何度かお話しする機会がありましてな。

非常に深い知識をお持ちで… どのお話も大変興味深く聞かせていただいたものです。

最近は、ウツシ殿もよくお話しされているとか…。うむむ、うらやましい限りです。

(マスター★4 カゲロウ)

 

カゲロウは行商でエルガドまで出向いたことが何度かあり、そこでパサパトと知り合いになったようです。以前のような王国騎士団の砦ではなく、再興後の観測拠点としてのエルガドはまだ日が浅いですから、カゲロウがその時期にエルガドに足を運んでいたということであれば、パサパトとの出会いはここ数年以内ということになるでしょうか。向学心豊かなカゲロウですから、知識豊富な学者のパサパトとはかなり気が合うでしょうね。

 

カムラの里の直近の事情もあり、ここ最近はエルガドまで遠出ができずパサパトとも会えていないようで、任務で度々エルガドに行っては彼と話しているらしいウツシ教官のことが少し羨ましいようです。パサパトもウツシのことはかなり気に入っているようで、ウツシが多忙であまりエルガドに来ていない時には、恰好の話し相手がいないことを少し寂しく感じていたりします。

 

そういえば、ウツシはどうしておるかのぅ。わしはすっかり、あやつと話すのが楽しみになっておるのじゃ。

提督やバハリ以外で、わしの昔話をああもおもしろげに聴く者もそうそうおらぬでなぁ。

お前さんといい、あやつといい、カムラの者は年寄りの扱いを ようわかっておるわぃ。ふぉふぉふぉ。

(マスター★6 パサパト)

 

パサパトの話にこうも熱心に食いつくのは何度もウツシらしい話ですが、「年寄りの扱いが上手い」と言われると、なんかこうカムラの里でのウツシの密かな苦労が透けて見えるような……。里長のフゲンを始め、カムラの里を率いるベテラン勢たちは皆あまりにもパワフルすぎるので、その下で責任ある立場で働くというのは、本人はさらっとやっているように見えて、実際けっこう大変だと思うんですよね。ウツシ教官の凄さを改めて思い知ります……。

 

むぅ…。今日こそは、あのなんともうまそうな団子を味わおうと思ったのじゃがのぅ…。

不思議なものでなぁ、いつもあそこにかけている二人組を見ているだけで、つい満腹になってしまうのじゃよ。

まあよいわ、またお前さんの師匠の… ほれ、あのウツシが来たときにでも 団子に誘ってみるとしようかのぅ。

(マスター★2 パサパト)

 

ヘルブラザーズの圧倒的食欲のオーラに押されていつもお団子を食べられずじまいのパサパトから、こうして食事に誘われるという場面も。このほかにも、エルガドの砦のなんかよくわからん棒の上でウツシがパサパトを肩車していたりする光景も時々見かけられるなど、ふたりは短期間でかなり親睦を深めていますね。……まぁそれにしても、ウツシに肩車してもらって砦のあのほっそい棒の上に乗るというのは、教官の抜群の体幹があるからこそ安心とは言えるものの、やっていること自体はなかなかの火遊びです。

 

(マスター★3 パサパト)

人間が乗るようには出来ていない(ガトリン談)というトロッコにも乗ってみたいと言うシーンがありますが、パサパトは体格的には小柄とはいえども、トロッコの荷台に乗るというのは100%安全とは言えません。トロッコの乗り心地はやみつきになるほどのスリルがある(またまたガトリン談)らしいですし、一見落ち着いた人物に見えて彼は意外と刺激を求めるタイプなのかもしれません。

 

それから、パサパトはカムラの里に対して何か特別の思い入れがあるようで、主人公と初対面の時には、彼が以前会ったことがある、カムラの里出身のとあるハンターの思い出話をしてくれます。

 

おりょ? これは珍しい。お前さん、カムラの者じゃな?

ふぉふぉ。これは期待できそうじゃ。何しろ、あそこで育ったハンターはおもしろい。

思い出すわい、あの若造。はて、なんという名だったか…。

う~ん…そう、"フゲン"じゃったか? あやつ、少しは大人になったのかのぅ。ふぉふぉふぉ。

(エルガド到着直後 パサパト)

 

なんとパサパトさん、若かりし頃のフゲンにも会ったことがあるとのこと。現役のハンターだった時のフゲンは、ハモン、ゴコクと共にその勇名を轟かせた人物。里長の名前が遥か海を越えて王国にも知られているというのは、なんだか誇らしいですね。それにしても、パサパトは主人公の姿を一目見ただけで、どうしてカムラの出身であると閃いたのでしょうか。身につけていた装備品や持ち物がカムラのものだったという話かもしれませんが、この時点での主人公の格好は必ずしもカムラ一式ではありませんし……うーん、カムラ人特有の覇気とかがあるのかなぁ……。

 

先ほどウツシ教官の話をしましたが、ウツシがパサパトと出会ったのは今回の来訪が初めてでしょうし、この2人が偶然出会ってすぐに意気投合したのは、ひょっとするとフゲンからウツシに「昔エルガドでパサパトという人物に世話になった」的な思い出話が語られていたからなのかもしれません。そしてもれなくウツシ教官も、若かりし頃のフゲンの話をたっぷりとパサパトから聴いている様子。

 

やあ、我が愛弟子! パサパトさんとのお話が止まらないんだ!

さすが竜人族のご老人だよ。興味ある話ばかりで カムラの里に帰れないんだ!

中でも俺が好きな話は…。里長の幼い頃の話かな! …………あっ、これは里長には秘密で頼むよ!

(マスター★2 ウツシ教官 エルガド)

 

ウツシにとってフゲンは自分たちの里の長であるばかりではなく、職務上でも直属の上司でもありますから、そんな人物が今の自分よりも若かったくらいの頃のエピソードを聴けるというのはまたとない機会。ウツシもこれ幸いと食い入るように耳を傾けています。現役ハンター時代にフゲンとチームを組んでいたハモンやゴコクも、里の若者にすすんで自分たちの昔話を語って聞かせる、というようなことはあまりしていないでしょうから、パサパトから初めて知らされる話もかなり多いのではなかろうか。

 

他方、普段からよく知る人物の過去の意外な一面、ある種の秘密(意図的に隠していたわけではないにしても)を本人のいない所で他の人から知らされるというのはちょっとした気恥ずかしさもあるというもので、当のフゲンに気まずい思いをさせないよう、こういう話はあくまでも自分たちの胸の中に仕舞っておいて愉しむべきものですから、パサパトから話を聞いたことはこの場だけの内密事項にしてほしい、とウツシ教官は気を回します。

 

しかしながら、そうしてわざわざ念を押してくる理由はそれだけではなく、かつてのフゲンは今の「剛柔を兼ね備えた頼もしい大将」という印象よりも、もう少し血気盛んで前のめりな性格(やんちゃ、とまでは行かないにしても)で、そういう部分も含めての諸々の武勇伝をパサパトは知っているのかな~とも思ったりするんですよね。作中で主人公に対してそれが語られないのは少し残念ですが、いずれにしてもこうしてカムラとエルガドの間で様々な友好関係が広がっていくのは、とても喜ばしいことです。

 

最後に、今後明かされる可能性のある設定に関する小ネタ。

 

 

パサパトのとんがり帽子についている風車、なんとなくですがMH4に登場した「シナト村」を思わせるものがあるんですよね。パサパトの出身地は現在のところ不明ですが、シナト村は竜人族が暮らす村ということもあり、ひょっとするとパサパトもそこに縁のある人物なのかも? 特命騎士セルバジーナからも、MH4の物語に関係すると思われるゴア・マガラの記録について聞くことができますし、サンブレイクの王国とMH4の舞台となった地方とは、地理的に結構近い距離にあるのかもしれません。今後の情報公開が楽しみですね。

 

2.変わり者だけど仲間想いな天才フィールドワーカー・バハリ

 

続いては、フィールドワークを得意とするモンスター研究者であり、エルガドの調査研究のリーダーを務めるバハリについてご紹介。パサパトには「まだまだ若造」などと言われていましたが、それはあくまで竜人族の時間単位のお話で、公式アナザーストーリーにもあったように、彼は少なくとも50年以上前から王国で研究員を続けているベテランの学者です。

 

俺が食事と睡眠にこだわっているのは 自分自身の経験からきてるんだ。

ほら、研究って夢中になっちゃうと寝食を忘れて没頭しちゃうだろう?

でも、数日後に絶対ツケが来るんだ! いつも猛反省してやめようって思うんだけど 気づいたら3日くらい経ってるんだよね…。

つまりだ。研究者も騎士も、結果を出すならいっぱい寝て、いっぱい食べる! これに尽きるってこと!

(マスター★3 バハリ)

 

バハリと言えば、いざ研究を始めれば寝食を忘れてのめりこんでしまうほどの研究への溢れんばかりの熱意。興味関心の赴くままにどこまででも答えを追い求めようとするこの前傾姿勢ぶりこそが、彼が天才である一番の所以といっても過言ではありません。しかしながら、そうして自分の身体に無理をさせるのにもやはり限界はあるもので、彼は研究を楽しみすぎるあまり徹夜を繰り返してしまうことが良くないことであるということを経験上自覚しており、食事と睡眠による健康管理にもこだわりを持っているようです。

 

それでも、いざ研究にのめり込んでしまうと、ダメとは分かっていても徹夜生活をしてしまうようで……。

 

さぁ、まってろキュリア…! この俺が、その生態を余すところなく解き明かしてやるぞ…!

研究者として 未知のものを研究するときほど 楽しいことはないよ! もうワックワク!

とりあえず三日三晩は徹夜かな! ……睡眠は大事なんじゃないかって? そりゃ大事さ、キミたちにとってはね!

(マスター★3イソネミクニ亜種後 バハリ)

 

先の台詞ではあれほど身体に無理をさせるものではないと自戒していたものの、いざ念願のキュリア捕獲にこぎつけた後はものの見事に手のひらクイックルワイパーなバハリさん。彼は数日後にまた「やるんじゃなかった…」と自らを省みることになりそうです。この一連のループが日常茶飯事と化しているのはやや心配ではありますが、好きなこと、興味のあることに時間を忘れて自分の全エネルギーを注ぎ込みたくなる気持ちは分からなくもないんですよね~。

 

何かと無茶をしがちなところは彼はフィオレーネと似ていますが、その動機が純粋に研究が楽しくて仕方がないからという点や、無茶をすることを美学と感じるというよりは、一応本当は良くないことだと自覚してはいるという点で。フィオレーネとは違うタイプ―—好きなことに全振りしすぎて他のことが二の次になってしまうタイプですね。この点は当のフィオレーネからも、次のような人物評を聴くことができます。

 

バハリはやかましいヤツだが あれでも一応、エルガドの研究員だ。

竜人族であり長命で、それだけ知識も豊富だ。何より、好奇心の塊なので興味が枯れることがない。

知識の欲求は、興味から湧くと聞く。強くなりたいと思う気持ちが鍛錬に励む意欲になるのと同じだ。

つまり興味が枯れないということは 知識の累積が止まることがない。…これがバハリという男なのだ。

(マスター★3 フィオレーネ)

 

彼の突飛な行動や、生活習慣についての(自分のことを棚に上げた)お小言には色々と言いたいことがある様子のフィオレーネにとっても、彼の飽くなき探究心やそれに裏付けられた厖大な知識量には、分野は違えど同じ求道者を自覚する者として、やはり尊敬すべきところがあるようです。……もっとも、気の置けない漫才コンビ相棒という間柄からか、殊更それを素直に口にすることはなんだか気恥ずかしいとも彼女は思っているようですが。

 

バハリはフィールドワーク主体の研究者ですから、狩場に単身飛び込んでモンスターの生態調査等を行うことも多いのですが、モンスターのことをもっと知りたいという興味のままに深追いをした結果、こんどは自分自身がモンスターの脅威に晒されてしまうこともしばしば。

 

……研究員の不手際だ。自業自得だろう。

しかしとても優秀なヤツだ。救出の手助けをして欲しい。……よろしく頼む。

(マスター★2アンジャナフ前 ガレアス)

 

一応、その際には持ち前の観察眼でギリギリの引き際を見極めているようで、今までもどんなピンチからでも確実に生還を遂げており(願わくばその観察眼を事前に発揮してピンチを避ける方向に使ってほしいものですが)、必ず無事に帰って来るということへの周囲からの信頼は厚いのですが、自力ではどうにも出来なくなった際にはやむを得ず救援要請を出すこともあり、ラインギリギリ過ぎる彼のフィールドワークに関しては「もっと安全に気をつけて調査してくれよ…」と拠点の仲間が頭を抱えることも。とはいえ、その調査が相応の成果を伴うものであるからこそ、バハリは研究者として高く評価されているというのもあるんですけどね。

 

それに、バハリは何かとお騒がせキャラな人ではあれど、それほどまでに研究に没頭する姿勢が、他の研究員の仲間にとっては時に励ましや希望になることもあるようです。

 

キュリア…。あんな生物、見たことないわ。とにかく、今の私の知識では理解不能な何かが起こっているのはたしかね…。

不安はあるけど、バハリさんを見てたらそんな気持ちも消えちゃいそう。じゃあ仕事に戻るわ。大丈夫、任せておいて!

(マスター★3イソネミクニ亜種後 クラン)

 

アンジャナフの一見に見られるような彼の前のめりな危なっかしさは、ともすればエルガドの研究班の中核を担う人物としての適性を疑われかねないものではあるものの、それでもバハリが研究員の仲間たちから慕われているのは、単に抜群に仕事ができるからというのみならず、困難な課題をも心底楽しもうとする彼の研究への混じりけのない熱意が、チーム全体の士気を高めポジティブな雰囲気を作るムードメーカーとして皆を支えている、という部分も大きいと思うのですよね。

 

それに、そういう突出した才覚を持つ人物の不安定さをフォローするために、堅実で視野が広く、人間関係の調整が上手いカルゴのような人物が管理職に登用されているのだと考えれば、やはりエルガドの組織は全体としてうまく回っており、非常に有機的に機能している……と言えるわけです。

 

また、フィールドワークに出かけていないときのバハリは、拠点マップではいつも研究所の扉の前にいますが、その際にもつねに研究についての考え事をしている様子。

 

メル・ゼナとキュリアか…。繋がったけど…なぜなんだ…? …○○はどう思う?

ははは、いきなりごめんごめん。考えることは俺たち研究者に任せてくれて大丈夫だよ。

こうやって口に出してると たま~に閃いたりするんだ。ブツブツ言ってても、気にしないでくれ!

(マスター★4 バハリ)

 

モンスターの研究といっても四六時中サンプルと向き合っているわけではなく、観察から得られた結果を元に諸要素を関係づけ、謎に対して一つの仮説を立て、そしてまた検証とフィールドワークに戻るということの地道な繰り返し。腰を据えてじっくり考える時間も、研究の中の重要なプロセスの1つです。

 

まぁ、独り言をつぶやいているのかと思えば突然名前を呼んで話を振ってくるというのは、そこはかとなく不気味さがないでもありませんが……。バハリは主人公のみならず、エルガドの他の面々(特にハンター?)にも構ってもらいに行く……もとい、不意に研究についての意見を求めたり、もつれた思考をほぐすための会話を持ちかけたりするようなこともあるようで、そうした突飛でフリーダムな振る舞いをするバハリには、人によって少なからず性格の相性の良し悪しがある様子。

 

今回の件、私は遠慮しておくわ。調査隊に恩を売るにはいい任務だけど…。ちょっと面倒なのよね、彼って。

ああ、心配しないで? 別に悪い人じゃないと思うの。ただ、私とは少し気が合わないってだけよ。

(マスター★2アンジャナフ前 ファロ)

 

他人との距離が詰まりすぎるのが苦手で、一線を引いた人間関係を好むファロにとっては、グイグイ系で他人を振り回しやすいバハリはちょっとカラーが違う相手。むろん、それは嫌っているということではないようで、どちらに非があるでもなく「それがバハリのスタイルなのだから」とファロは大人の対応をしています。というかむしろ彼女は、バハリが主人公のことを気に入った様子を見て、これからどんな化学反応が起こるのかと若干楽しみにしているような雰囲気があったりなかったり……ま、この話はファロの記事ですることと致しましょう。

 

……さて、ここまでの話だけを聞くと、バハリは大好きな研究に没頭しすぎるあまり、周りを振り回してしまう感じの人物に見えるのですが……というかまぁ、それはそれで事実ではあるのですが、彼が身勝手な人物なのかというと決してそうではなく、むしろとても仲間想いで、調査隊全体のチームワークをとても大切にしている人物でもあるんですよ。

 

○○たちが狩る! 俺がキュリアを捕獲する! この流れ、完璧じゃない!?

いいねいいね、チーム・エルガド! 団結力バッチリだよ!

○○がしっかりモンスターをひきつけてくれるから 俺は安全に捕獲できてるんだよね。

というわけで、今回もよろしく! 頼りにしてるからね!

(マスター★4緊急前 バハリ)

 

王域三公の1体・ルナガロン狩猟前のバハリの台詞。主人公とフィオレーネがルナガロンを狩猟し、バハリたち研究員が付近のキュリアを調査するという役割分担で実行するわけですが、その際にバハリは「主人公やフィオレーネのおかげで自分はキュリアの捕獲に専念できるのだ」と非常に主人公を頼りにしています。

 

バハリは基本的にはフィールドワーク中心の研究者で、彼自身は特にハンター資格がありモンスターを狩猟できるわけではないながらも、自然の中に飛び込んで調査を行っています。そんなスタイルの彼だからこそ、身ひとつで狩場に繰り出すことがどれほど危険なことかを熟知しており、狩猟技術のない研究者の代わりにモンスターを引き受け、モンスター調査の重要な1ピースを担ってくれるハンターの存在を、ありがたく思うところが大きいのでしょうね。まぁ、それでいて水没林のアンジャナフの時などは、ギリギリまで調査をしようとした結果、ちゃっかり救援要請を出すに至るというお茶目ムーブを決めているわけですが……そういう調子のよいところもバハリらしいですね。

 

そのようなわけで、バハリの台詞にはモンスターの狩猟に向かう騎士やハンターたちを気遣うようなものが数多くあります。特に、厚い信頼関係を築く相棒のような存在であり、同時に自己犠牲に走りがちなところを心配している漫才の相方フィオレーネに対しては、「食事と睡眠をとれ~」と日頃から小言を並べているようです。

 

エスピナスを相手してきたばかりなのに 引き続きモンスターの対処をお願いしちゃってすまないね。

フィオレーネが元気になったら、またたくさん小言を並べてやらないとね。

「食事はとった? 睡眠は?」この小言、病み上がりの体にこそ ピッタリじゃないか!

ほんと…フィオレーネがいないと なんだか調子が狂うんだよな~。早く元気になってほしいよ。

(マスター★4エスピナス後 バハリ)

 

当のフィオレーネには「口うるさい」と表面上はあしらわれているものの、バハリのメッセージはきちんと彼女に伝わっているようです(この辺の話の詳細は下記フィオレーネの記事参照)。自身も研究に没頭するあまり自分の体調管理を忘れてしまい、後になってその反動が返ってくることの大変さを熟知しているからこそ、フィオレーネにも無理をしてほしくない、無理をすることを仕事の美学として考えてほしくない、という言には経験者ならではの説得力があります。

 

mhrisecharacter.hatenadiary.jp

 

決戦に挑む主人公に対しても、バハリは「無事に帰ってくることも任務だ」と、自らの身の安全を気遣うことを念押ししてきます。

 

「深淵の悪魔」。それが、今回の一連の元凶だ。…天気までなんだか怪しくなってきたよ。

おとぎ話になるほどの存在…。なんだか、途方もない話の気がするよね。でも、これは現実だ。

メル・ゼナがいない以上、悪魔は俺たちが止めなければならない。王国とカムラの里を守るために…なんとしてでも。

無事に帰ってくることも任務だよ。絶対、絶対無事に帰ってくるんだ…! 頼ってばかりですまないが…頼んだよ!

(マスター★6緊急前 バハリ)

 

災いの根源を退けることだけではなく、ハンターが無事に帰ってきてこそ初めて本当の平和が訪れる――モンハンライズ-サンブレイクの大きなテーマである「家族」「帰るべき場所」というところに直結する言葉ですね。バハリも研究職である以上は、実地で狩猟を行うハンターを後方から送り出す立場にあります。むろん、それは役割分担の上では当然のことですし、それぞれの仕事の間に価値の優劣などはないのですが、ハンターや騎士たちは調査隊の中でも最も危険な任務を行う人たちだからこそ、彼らが犠牲になるというようなことは、決して起きてほしくない――という想いが、この台詞には特に深く込められているんですよね。

 

そしてそれと同時に、ハンターや騎士たちの狩猟の成果を元に研究を進めたり、情報提供やアイテムの開発によって彼らの狩猟を支援するのが、自分たち研究員の役目だ、という強い自負をバハリは持っています。エルガドの研究員はバハリ以外にも、砦の会議場裏でいつも仕事をしているクランやカルゴの他、プレイヤーは立ち入れない研究所の中(開発当初は屋根の上から話しかけられる予定だったらしい)にも数名確認できますが、彼はそうした研究員の仲間のことをとても誇りに思っているんですよ。

 

この研究所は、一応 関係者以外立ち入り禁止なんだ。危険な薬品や装置もあるからね。

外から見てもらう分には構わないよ。俺以外の研究員も いつもがんばってるからさ。

俺たちのがんばりを目に焼き付けて! そして俺たちのがんばりっぷりを ほめちぎってくれていいよ!

(マスター★4 バハリ)

 

また、メル・ゼナとの初の遭遇の後では、キュリアの毒がフィオレーネの身体を蝕んでいることを自分が気づけなかったことについて、バハリは珍しくかなり落ち込んでいました。

 

キュリアの毒は「気づけない」ことが最大の脅威だけど……

…そういう難しいところをいち早く見抜くのが俺の役目なんだよ。それなのに…。ああ、悔しいねぇ…。

ここは薬師のタドリが頼みの綱だ。悪いけど、タドリの捜索をよろしく頼むよ。

(マスター★4ライゼクス前 バハリ)

 

調査隊の仲間を守るという使命を果たしたフィオレーネに比べて、そのフィオレーネに迫る危機を見抜けなかった自分。騎士・ハンターと研究員との持ちつ持たれつのチームワークを理想としているバハリだからこそ、専門知識によるサポートという役割を果たせなかったことを痛恨のミスだと思っている様子。

 

もちろん、その後は彼がエスピナスの毒をバッチリ採取したことでフィオレーネのための薬が完成に至っていますし、作中を通してバハリたちの研究は王国の危機の解決に多大な貢献をしており、多くの面で狩猟を支えてくれていることは間違いないのですが、フィオレーネの容態が重篤なものとなる前にキュリアの毒に気づけなかったことを悔やむバハリの気持ちもすごくよくわかります。

 

むしろ、「そもそも早期発見が難しいことがキュリアの毒の最も厄介な点なのだから、専門家でもフィオレーネの体調の異変に気づけないのは仕方がないことだ」という分かりやすい(そして客観的に見れば至極真っ当とも思える)言い分があるにも関わらず、そのような言い逃れを決してしようとはしないところが、彼が仲間の信頼に真摯に応えようとしている姿勢と、彼の研究者としてのプライドが伝わってきて、すごく好きなところなんですよ。

 

(マスター★6 バハリ)

特定の誰かに大きな負担を集中させてしまうのではなく、お互いが自分の役割を果たして仲間同士支え合い、チームとしてこの危機を乗り越えていきたいというのが、バハリの理想とするところ。「チーム・エルガド」とは彼が言い始めたキーワードですが、バハリはその研究者としての独特のスタイルゆえに変人の部分がフィーチャーされがちではあるものの、別の側面では長きに渡って王国の異変に向き合ってきた年長者として、エルガド全体のチームワークを考え、仲間をよく気遣うしっかりとした大人でもあるんですよね。

 

バハリは50年前の疫病の時には既に王国の研究員として仕事をしており、彼のキャリアがどれくらいのものなのかは作中では定かではありませんが、長い王国史の中で国に異変が起きる度に彼はその時々の王国騎士や研究者たちとチームを組み、危機から王国を護ってきたということになります。災禍に苦しむ王国や、困難に直面する人々、またそれに立ち向かう仲間をその度に見届けてきたというのも、彼が自分の出会った仲間やチームワークの大切さにこだわりを持っていたり、犠牲に対して敏感であったりする一因なのかなぁ、と思ったりもするんですよね。

 

また、少し話は変わりますが、エルガドでの仕事以外の部分でも、そうしたバハリの面倒見の良さが感じられるエピソードもあるんですよ。

 

[前略]

薬師タドリ殿は…。

じつは…。

バハリ殿にお弁当を作ってもらっている!

1人で現地調査を行っているタドリ殿は 外に出ていることが多いのもあって あまり食に興味がないようなのニャ。

草やキノコをそのまま食べている姿をみかねて、バハリ殿が料理を作ってくれているニャ。

バハリ殿は食事と睡眠を大事にしているだけあって 料理の腕はかなりのものなのニャ。

タドリ殿がたまにエルガドに来たときに 日持ちする食べ物やお弁当を持たせて 食のお世話をしているニャ。

あんなに冷静で大人なタドリ殿が 変わり者のバハリ殿のお世話になってるなんて、意外すぎる関係なのニャ。

[後略]

(マスター★6 フカシギ)

 

食事に関してあまりにもこだわりがなさすぎるタドリを心配して、お弁当や保存食を自作して彼に持たせているらしいバハリ。これがウワサの弁当男子か……! 一応タドリも植生学や薬学のプロですから、食べられる植物とそうでない植物、生食ができるものとそうでないものの区別などはきちんと付けた上で口に入れているものとは思いますが、このあまりにも原始時代すぎる食生活はさすがにQOL的に(?)どうなのかということで、きちんとした食事が取れるよう料理を作ってあげているようです。バハリとタドリ、常識人と変人の関係がある部分では逆転するというのもギャップ好きにはたまらないエピソードですね。

 

ちなみに、ここまでは変人じゃない方のバハリについてお話してきましたが、研究ガチ勢の変人の方のバハリも現在進行形でモチロン健在です。

 

おめでとう! 無事にアマツマガツチを討伐したってね。

現地にさっそく研究員を派遣しててね。サンプルを持ち帰ってもらう予定なんだけど 到着まではもう少し時間がかかるって。

ああ、待ち遠しい! 早く調べ尽くしたい! 楽しみすぎて、もう3日寝てないんだよ!

アマツマガツチ討伐後 バハリ)

 

カムラの里周辺に襲来したアマツマガツチについて、あまりにもサンプルが届くのが楽しみで気分が高揚し過ぎるあまり、研究にとりかかる前から謎に3日徹夜しているという今まで聞いたこともないような状況が発生しています。獲らぬアマツのなんとやら…。

 

そもそも彼はアマツマガツチ討伐に出発する前の会話でも「討伐後はアマツの研究をしたいからちゃちゃっと討伐よろしくね(^^)」的なテンションで主人公を送り出しており(もちろんこれは彼が主人公の実力に絶対の信頼を置いているということや、敢えておどけてみせることで主人公の肩の力を抜こうとしたという意図もあるかもしれませんが)、未だヴェールに包まれた古龍アマツマガツチへの尋常ではないワクワク度合いがよくわかる台詞となっています。まぁ、ある意味いつも通りで安心するといえばその通りですが、サンプルが届くまでの間くらいはきちんと睡眠を取っておいてほしいものです。

 

(マスター★5緊急前)

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ということで、本稿での考察はこの辺りで〆とさせて頂きたいと思います。バハリ編でお話しした研究所の仲間であるクランとカルゴも、また別の記事でスポットを当てていきたいと思いますので、どうぞお楽しみに。

 

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。また別の記事でお会いしましょう!