災禍の果てに結ばれたもの

※注意事項※

・本記事はモンスターハンターライズ:サンブレイク」全編および、一部シリーズ他作品のネタバレを含みますのでご注意ください。
・本記事でのキャラクターや人間関係、世界観の考察に関しては、作中で判明する設定を基にした筆者の推測を含む箇所が多くありますことをご了承ください。
・筆者は2021年12月17日発売の『モンスターハンターライズ 公式設定資料集 百竜災禍秘録』を未読の状態で執筆しております。
 現在または今後公開される公式設定が、本記事での考察内容と明確に異なる(=本記事での考察内容が誤りである)ことがある可能性がありますことをご了承ください。
・本記事の内容は、記事を改訂すべき点が発見された際には、予告なく加筆修正を致します。

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本記事ではモンハンライズサンブレイクの第6弾アップデート(ボーナスアップデート)の感想&考察を行っていきます。サンブレイク最後のアプデにして、王国史についての大きな内容の深堀りがあった今回。特殊個体のメル・ゼナと王国の人々との関係や、エルガドの仲間たちの会話についておさらいしつつ色々考えていきましょう。前置きはこの辺に致しまして、さっそく本編へ!

 

ーーーー目次ーーーー

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1.「原初を刻むメル・ゼナ」の出現

 

先日の予想考察記事では、メル・ゼナの特殊個体は「キュリアと共生をしていないメル・ゼナ」「キュリアとの共生がさらに進んだメル・ゼナ」のどちらかであろうという話題で、キュリアと共生する前のメル・ゼナは人間と共存するという設定が開発者リポートで公開されたことから、追加モンスターとして登場するのは後者なのではないか、と書きましたが、今回のアップデートで実際に登場したのは、キュリアと共生する以前の爵銀龍、「原初を刻むメル・ゼナ」でした。この個体はストーリー中で討伐した、キュリアと共生していたメル・ゼナとは別個体であることが、ラパーチェの言から明確に示されています(古龍が複数個体いるというのが作中で明言されるのは、なにげに少し珍しいかも?)。

 

(「滅浄の裁き」クリア前 ラパーチェ)

うおおおおおーーーー! という感動と同時に、先ほどの設定を鑑みれば、「キュリアと共生をしていないメル・ゼナがなぜ大暴れして被害を出しているのか?」ということが疑問にあがります。これは、クエスト受注前のガレアス、バハリとの会話の中で、フィオレーネも指摘していたことです。

 

 

(「滅浄の裁き」クリア前)

この点はバハリも色々と推察を巡らせており、キュリアとの共生を自分から狙っているのか、とも当初は考えていましたが、会議の後では「キュリアの影響により、王域全土で傀異化モンスターが暴れている状況はメル・ゼナにとっては不都合である」という、後の展開を暗に示すような、非常に鋭い見解を話してくれます。

 

メル・ゼナの特殊個体、なぜ今になってあらわれたのか? 本当にキュリアと関わりはないのか…?
オレはキュリアが拡大したことと、今回のことが無関係とは思えないんだ。

メル・ゼナは縄張りに固執する。今は王域全土で傀異化↓モンスターが出現しているだろう?

ヤツにとっては好ましくない状況のはず、おそらくそこに訳があるはずなんだ…。

けど、ヤツを止めるのが先なのはその通り。いつもいつも頼ってばかりで悪いけど、○○、今回もよろしく!

(「滅浄の裁き」クリア前 バハリ)

 

ここで、この後の展開について触れる前に、クエスト出発前のエルガドの仲間たちの会話をいくつか取り上げていきましょうか。

 

[前略]
相手はあの憎きメル・ゼナの特殊個体…。以前の私なら、きっと焦燥感にかられ、後先考えずに行動していたかもしれない。

だが今は、自然と落ち着いている。○○と一緒なら、必ず阻止できると確信しているからだ。

行こう。数百年の長きに渡る因縁に終止符を打ち、王国の誇りを取り戻そう!

(「滅浄の裁き」クリア前 フィオレーネ)

 

原初を刻むメル・ゼナとの決戦を前に、とても頼もしい言葉をくれるフィオレーネ。出会ったばかりの頃の彼女であれば、王国を護らなければならないという使命感を1人で抱え込み、単身城塞高地へと赴く……というような無茶をしてしまっていたかもしれません。しかし、今のフィオレーネは違います。独りで戦うのではなく皆で力を合わせ、「自分自身を含めて誰も犠牲を出すことなく、クエストを成功させて無事に帰還する」ことこそが王国の真の平和に繋がるのだということを、彼女は今回の一件で、猛き炎と共に狩猟をする中で自ら学び取りました。

 

メル・ゼナの件、話は聞いたようだな。女王陛下から指示をいただきつつ、我ら特命騎士が調査を進めていたのだ。
今までに感じたことのない威圧感であり、白銀の眩い姿は我の次に輝いておったな…。

だが問題はあるまい! 「鬼神の裁き」だなどと笑止千万! おとぎ話なぞ、我と猛き炎には通用せん!

見事阻止して、これからはおとぎ話を、我と猛き炎の熱き物語に変えるとしよう! ふはははは!

(「滅浄の裁き」クリア前 セルバジーナ)

 

以前のアップデートでも何度か匂わせのような台詞があったように、セルバジーナは王都の女王陛下の命を受けて、原初を刻むメル・ゼナの調査をここまで主導してきた特命騎士です。で、彼は調査の中で、一足先に原初を刻むメル・ゼナの姿を目撃しているわけですが、その白銀に輝く神々しい姿を見てもなお、「自分の輝きは劣っていない」と自信たっぷり。どこからその自信が湧いてくるのかは全く以て不明ではあるものの、彼は根拠のない自信は絶対に持たない人ですから、自然とこちらも力を貰えるというもの。おとぎ話を変えるのはさすがにどうかと思いますが……。

 

おとぎ話か…。懐かしいのう。わしの知るメル・ゼナとはまさに その話の "鬼神" じゃ。
じゃがのう点 存在は知れど、生態は昔から謎だらけでな。そのほとんどが分かっておらん。

大昔に一度だけ遠目で見たが、不覚にもその美しさに目を奪われたことを覚えておるわい。

おっと、美しいとは不謹慎じゃったな。年寄りの戯言じゃ。許せ。ふぉふぉふぉ。

(「滅浄の裁き」クリア前 パサパト)

 

エルガドの中ではおそらく唯一、キュリアと共生していないメル・ゼナを自分の目で見たことがあるというパサパト。竜人族である彼をして「大昔」と言うほどなのですから、その出来事は数百年前という単位で過去のことのようですね。それくらいメル・ゼナの目撃例は稀少ということで、歴史学者のパサパトを以てしてもなお、その生態は今だ雲の中。彼はそのメル・ゼナの姿を「美しい」と言ったことを、この緊急事態において不謹慎だったと撤回していますが、あるいはそのような見方こそが、後に判明するメル・ゼナの真理を捉えたものだったのかもしれません。

 

その他、エルガドの仲間の中ではチッチェ姫の台詞も特筆すべき内容があるのですが、これについてはクエスト帰還後の台詞と一続きの内容になっているため、そちらで取りあげることと致しましょう。

 

それから、カムラの里でも一名、おもしろい台詞がある人がいたのでご紹介。

 

話は聞いたよ。王国が危急存亡のとき…らしいね。

だが、俺と共に、燃え上がる師弟の絆でアマツマガツチを鮮やかに退けたキミなら、絶対に間違いなく確実に大丈夫だ!

……え? 相手が謎だらけ? ハッハッハッ! 構うもんか! 謎ごとぶっ飛ばして、帰っておいで!

(「滅浄の裁き」クリア前 ウツシ)

 

前半から後半にかけてのテンションの上がり方どうなってんねん。愛弟子の腕前に自信(という表現が合ってるのかわかりませんが)がありすぎるせいで、原初メル・ゼナの狩猟のことをまるで不安に思っていないウツシ教官です。まぁでも、ウツシ教官はやっぱりこうでなきゃね。

 

2.災禍の果てに結ばれたもの

 

さて、事の真相としては、メル・ゼナの真意は自身の縄張りである王域のキュリアを駆除することにあり、恐らくはその余波が偶然にも人間の居住地にも被害を及ぼしてしまっていた、ということでした。フィオレーネも狩猟中に、「メル・ゼナが本当に戦っているのは自分たちではないのではないか」と気がついていましたね。

 

 

フィオレーネにとってのメル・ゼナは、王国の大切な人々を幾度となく脅かしてきた憎むべき相手であり、王国を護る騎士として討ち果たさなければならないモンスターでした(一応、キュリアの影響を受けた別個体からではあるものの、彼女自身もまたメル・ゼナによって生命の危機に追い込まれた当事者ではあるのですが、彼女の性格上その件はただ自分自身の不覚と認識していて、むしろ他の人たちのことを第一に考えているようですね)。

 

 

理由はどうあれ、実際にメル・ゼナが何度も王国に被害を出してきたのは事実であり、フィオレーネはメル・ゼナへの煮え滾る気持ちに駆られそうになるのですが、クエスト終了後のイベントシーンではそれをぐっと堪え、ここで真に倒すべき相手であるキュリアへと討伐対象を変更するという、騎士としての冷静な判断を下します。ガイアデルム討伐までのストーリーでは、実力の高さと当時に精神的な危うさも見える彼女でしたが、ここではひたすらに頼もしい。騎士としての大きな成長が見える描写ですね。

 

 

メル・ゼナに纏わりつくキュリアを2人で殲滅し終えた後、顔を合わせたメル・ゼナの穏やかな顔。これが王域の守護者たるメル・ゼナの、本来の表情なのか……というしみじみとした感動があります。猛き炎とフィオレーネは、ほんのつい先ほどまではメル・ゼナに対して武器を振るっており、メル・ゼナ側もそんな2人に応戦していたのですが、ここでメル・ゼナは2人が自分ではなくキュリアの方を追い払うようになったのを見て、この2人は自分のことを脅かす外敵ではないらしい、という認識をするようになるのが、古龍の精神構造の深遠さを窺わせるものがあります。

 

激闘の果てに全てを理解し、互いに剣を鞘に納め、メル・ゼナと通じ合ったかのようなこの不思議な気持ちを「絆」などと名付けるのは、ひょっとするとこの世界であまりにもかよわい人間の、一方的な思い込みに過ぎないのかもしれません。今回の件は、自らの縄張りを脅かし自分自身にをも蝕もうとするキュリアを排除したいメル・ゼナと、キュリアの被害から王国を守るという人間の利害が一致した結果にすぎず、キュリア殲滅後にメル・ゼナが2人を襲わなかったのも、外敵として認識していない存在に対しては無用の戦闘を仕掛けないという、メル・ゼナ本来の穏健な性格に由来するものだ……というのは、中立的で正しい現実主義なのだろうと思います(それでも、人間はしばしば夢想を抱いてしまうこともあるし、その夢想が必ずしも全くの虚構であるとも限らないのだけれど)。

 

後にガレアスも指摘するように、王国史に残るメル・ゼナの行動は王域への侵略者たるガイアデルムを排除するためのものであり、人間がそれによって守られているという側面はあるものの、一方でメル・ゼナにとってはそれは自身の縄張りを守る行動という以上の意味を持たないのですから、メル・ゼナを「王域の守護者」「救国の英雄」という形で祭り上げるのも、やはりひとえに人間側の都合によるもの。逆にメル・ゼナが、直接人間を標的とすることはなくとも、縄張りを守ろうとするための何らかの行動の結果として人間に被害を出すことも同様にありますし、もしそのようなことがあれば、やはり王国騎士やハンターはそれを対処しなければなりません。

 

それでも、ライズ-サンブレイクの最後にこのような結末を迎えられたことは、この作品にとって非常に意味のあることだと思うんですよね。本作はライズ時代から一貫して、「百竜夜行」「王域生物の異変」「ツキトの都の滅亡」といった、モンスターたちのもたらす災禍に直面し、それに立ち向かう人類の姿を描いてきました。モンハン世界では圧倒的に力の弱い生きものである人類が、一致団結して自然界の大波を乗り越えようとする……そんな姿に、筆者はプレイヤーとして何度も元気づけられました。

 

そして一方でそうした「災禍」を描くことは、「人類 対 モンスター」という、二元論的な構図を強く印象付けてしまうものでもあります(実際には作中でもゴコクの相棒であるテツカブラのテッカちゃんのように、そうした図式へのアンチテーゼとなる存在は一応いるのですが)。登場人物個人のレベルで見ても、今回のフィオレーネにしても前回のカゲロウにしても、モンスターを狩る動機に「復讐」「敵討ち」といった感情が含まれており、これは災いの中での人間ドラマという点ではとても良質なものではありますが、モンハンの世界観の骨子となる「人間が日々を生きる営みとしての狩り」という所からは、少なからず距離があるものです(※)。

 

※もちろん、こうした人間ドラマはモンハンシリーズの源流から少し外れるものであったとしても、「自らの故郷がモンスターの災禍によって失われること」をただ「自然の営み」「悔しいが仕方がない」などと容易に割り切ることができず、そのモンスターを仇として許せなく思う気持ちというのもまた「この世界に生ける者としての自然な様相」の一つであり、そうした感情に突き動かされて狩りに赴こうとしたり、それとどうにかして折り合いをつけたりといった作中の機微は、間違いなくモンハン世界の人類の営みの一角を、モンハン世界で起こるべくして起こったことを描いていると思うんですよね。

 

もちろん、アマツマガツチの時にフゲンがカゲロウを諭して主人公とウツシに狩猟を託していたように、「ハンターの狩り」は己の中で激しく揺れる悔恨や復讐等の歪な感情を第一の動機とすべきではなく、「自分たちの生命を脅かす者を狩猟し自分たちの生活を守る」という原初的な必要に根差したまっすぐな動機こそが、人類が自然に対峙しモンスターを狩る際の本来あるべきすがたであり、ハンターが邪念に囚われず冷静にモンスターや自然と対峙できるための条件でもあるのだ、ということも、作中で示されてはいるのです。

 

モンスターが時として人類社会に壊滅的な被害をもたらすことは事実ではあるものの、自然界の雄大な営み、うねり、循環を描こうとするモンスターハンター作品において、「モンスターは(人類にとっての普遍的な)敵」という認識をプレイヤーに与えてしまうのは、恐らく最大のタブーとも言えるものであり、同時にそれは些細な描写の綻びによって、簡単に崩れてしまう可能性のある繊細な世界観でもあると思うんですよね。

 

そんな中で今回の、キュリアを巡る決戦の末に、猛き炎やフィオレーネとメル・ゼナとの間に「戦友」としてのような、「互いの理解者」としてのような、「共に王域に在るもの」としてのような――あるいはもっと形容しがたい何か――のような繋がりが芽生え、結ばれたように感じられたことは、モンスターは人間にとって「普遍的な敵」ではないということ、モンスターと人とは共存ができる(共生ではなくても)ということ、人間の生活はモンスターの生態によって時には脅かされることもあるが、時にはそれに支えられていることもあるということ――百竜夜行やキュリアのような災禍も、王域におけるメル・ゼナと人間との共存も、すべては複雑怪奇な大自然の営みが生み出す偶然性の内にあるのだということに、改めて立ち返らせてくれるものだったなぁと思います。

 

あ、そういえばこの辺りで、少しプチ自慢をさせて頂きたいことがありまして。先にも述べたように、今回の一件を通じて、王国史において「大穴を巣窟として何度も王国を危機に追いやった」とされていたメル・ゼナは、実際にはガイアデルムの対処に動いていた王域の守護者であったという史実の再認識がなされたわけですが、これに関して、2022年7月10日に、筆者は以下のような記事を投稿しておりました。

 

mhrisecharacter.hatenadiary.jp

 

サンブレイク発売直後、ストーリー攻略の段階で「古龍が何度も人間の居住地を襲うっておかしくね?」と疑問を抱いており(古龍は一部攻撃的な種もいるものの、基本的にはその圧倒的な力の故に自然界に外敵と呼べる存在が極端に少ないため、周囲の生物に対しては歯牙にもかけない振る舞いで、敵対心を抱いて無為に攻撃を仕掛けることもない)、かつメル・ゼナが王国を襲った理由が一切名言されなかったことに消化不良を感じていた昨年の筆者は、メル・ゼナとガイアデルムの間に深い因縁があること、メル・ゼナは王国を襲撃する際、つねに大穴の近くに現れることから、おそらくこれまでの歴史においても、メル・ゼナは人間を目の敵にして攻撃をしていたのではなく、常にガイアデルムの排除のために行動していたのだろう……と推察していました。

 

それが、今回のアプデのストーリーでついに真相が語られたため、筆者は大満足……と共に、まさか自分が一年前に考えていたことが(細かいところは色々と違うとしても)最終アップデートの物語とたまたま合致したということで、非常に驚いていたりもします。まぁ、古龍が一般的にどういう存在かを分かっていればそれほど難しい推察ではないだろ、と言われればその通りなので、実際のところ誇るようなことでもないのかもしれませんが……。

 

……と、そんな私のどうでもいい話はさておきまして、お次は城塞高地の廃墟を飛び立つメル・ゼナを見送った後の、我らがフィオレーネさんです。

 

 

めっちゃメインヒロインしてるやん……。万感の想いが込められた涙ですよこれは。生真面目で責任感の強い彼女が、王国騎士として人一倍重く背負ってきた「王国を護る」という使命がひと段落して、肩の荷が下りたという安堵。大切な王国の人々を脅かす憎むべき相手だと思っていたメル・ゼナが実は王域の守護者とも言うべき存在であったと判り、その本来の姿である原初メル・ゼナの穏やかな表情を前に、憎悪が少しずつ解きほぐされてゆくカタルシス。それと同時に、自分たちの認識の及ばなかった、深遠な自然界の真理に直面する感動。メル・ゼナもまたある意味では自分たちと同じようにキュリアと闘っていたのだという、騎士としての共鳴。そういう感情がもう全部、このシーンだけで伝わってくる。ヤバい(語彙力喪失)。

 

ちなみに、そんなメル・ゼナと相対し剣を向けたことについて、帰還後のフィオレーネは「憎悪を抱いたこともあったが認識を改めるべきかもしれない」と、少し複雑な気持ちを抱いている様子でしたが、これについてはガレアスが、力強く彼女の背中を押してくれています。

 

たしかに王国はメル・ゼナに救われている。今回もキュリアの拡大を食い止め、殲滅するために行動していた。
だが、被害が出たのもまた事実…。王国には傷を負わされた者が多数いる。ヤツは己の縄張りを護ったにすぎないのだ。

我らは縄張りを護っているのではなく、王国にいる人々の安寧を護っている。その点において、決定的な違いがある。

フィオレーネ、我らの任務は変わらん。人々に脅威が迫れば立ち向かうのみ。胸を張れ。

(「滅浄の裁き」クリア後 ガレアス)

 

メル・ゼナがどのような存在であろうとも、モンスターの脅威があればそれに対処し、王国を護るのが騎士の使命。そこにはメル・ゼナが敵だとか、味方だとかいう概念自体がそもそも存在しないのであって、この広大な自然界のただ中で、王国という宝を守っていくということを大切にして、それに誇りを持ってほしい……王国騎士や、ハンターという存在の輪郭を的確に捉えた言葉ですね。

 

実はずいぶん前のセルバジーナの台詞でも、その話に繋がるようなことが話されていたりします。

 

ふむ…どうやら 王域生物が好き勝手している様子。

何にも縛られることなく生きるのは、生命を最大限に尊重した生き方だろう。

しかしそれは、他者を侵害しない場合に限る話。カムラの里へ被害が及んでいるなど、もってのほかだ。

提督から指令が出た以上、エルガドの総力をもって対応するだろう。被害はこれ以上出させまい。

(マスター★2 セルバジーナ)

 

王域生物たちの動向について、セルバジーナは「生命を尊重した姿」とそれが自然のありのままの姿であり、そこに善悪いずれの意図もないことを前提としつつ、人間の生活圏の防衛や王域内の生態系の保守といった目的において、必要に応じてモンスターを狩猟し王国を守る――というのが、王国騎士団の依って立つ使命。もちろん、その目的というのがまた人間側の都合や意味づけの上にあるものでしかなかったとしても、それを承知の上で任務に取り組むのが王国騎士の使命であり、そこに迷いはないのだ……というのがセルバジーナの意志。

 

「他者を侵害しない場合に……」の部分は自然界の共存やら共生やらを説いているようにも見えなくもありませんが、これはどちらかというと王国の門番としての騎士の仕事を誇りに思うセルバジーナ節かなぁという印象もあります。いずれにしてもこうして他の仲間からも語られる騎士の信念が、後のガレアスの話にも繋がってくるわけですね。

 

(「滅浄の裁き」クリア後 アルロー)

で、そこで「難しい話はそのへんでいいんだよ」と場を中和してくれるのがアルロー教官ですね。ガレアスもフィオレーネも、真面目で思慮深く、リーダーシップに溢れる存在ではありますが、それゆえに肩の力が入り過ぎてしまうところがある。そんな2人を、懐の深いアルローがくだけたトーンでうまいことバランスを取って支えてくれる。特にガレアスとアルローの親友コンビは、彼らがまだ若い騎士だった頃からずっとこういう形で精神的に助け合ってきたのかもしれませんね。お互いの性格を知り尽くしているからこその、いいチームワーク。

 

そして、ガレアスから「家族」という言葉が聴けるのが、個人的にはこのシーン一番の見せ場なんですよ。失われたかつての故郷に対する想いと、今の彼にとっての大切な第二の故郷である王国が守られたということへの喜び。多くを語らずとも心の内に秘めている、エルガドの仲間への愛情。彼が王国の人々や仲間をいかに心の拠り所としているかということが、ひしひしと伝わってきます。

 

……私にとって王国は故郷だ。一度は生まれ育った地を追われ、故郷を失った。…しかし。

王国の人々と共に歩み生まれた絆が、私に新しい居場所を与えてくれた。そして、それはいつしか故郷となった。

○○殿、貴殿もすでに王国と強い絆で結ばれている。この地を第2の故郷だと思ってほしい。

(「滅浄の裁き」クリア後 ガレアス)

 

家族といえば、このブログではライズ時代に、次のような記事を投稿しておりました。

 

mhrisecharacter.hatenadiary.jp

 

この記事でも書きましたが(この記事1年半前なのか……)、「家族」という言葉はとても複雑なものを孕む言葉で、これは我々の世界においてもそうですが、ある人にとっては家族は愛情や幸福の象徴でもあれば、またある人にとっては重さを感じたり、苦しみをもたらす呪いにもなり得たりするもの。「家族」という繋がりは必ずしも手放しに肯定できるものではなく、とても身近でありながら、極めて扱いの難しい言葉でもあります。

 

モンハンの話に戻りますが、そんな中で、このエルガドでの繋がりがいかなる意味で「家族」と呼ばれうるのかといえば、王域生物の異変やモンスターの傀異化という災禍に際してエルガドという同じ場所に集い、そこで数々の死線を超え、苦楽を共にする中で、互いをかけがえのないものとして気遣うような強固な紐帯が結ばれたこと、自分たちがエルガドに居合わせたのは最初は一つの偶然の結果であっても、互いの存在が次第に交換不可能なものとして、互いの帰るべき場所、帰りを待つ相手として認識されるようになったこと。狩猟に赴く騎士やハンターたちが、自らの帰るべき場所を護るために武器を取るというだけでなく、最後にはきちんと自分が無事に帰り、自分を含めて誰一人欠けることなく全員で平和を分かち合えてこそ皆は真に平和を喜んでくれるのだ、ということを思えるような関係性を築けたこと。

 

それが、ここでガレアスの言う「家族」の意味であり、カムラの里の「家族」の意味でもあり、ひいてはモンスターの圧倒的な脅威という自然界の荒波に流されまいと連帯して生きるモンハン世界の人々にとっての、一つの「家族」観だと思うんですよね。出自や血縁において「家族である」というだけではなく、互いのルーツが何であれ、同じ場所に集い、共に困難に立ち向かう中で「家族になる」という形もある……という感じ。

 

そして人類は、自分たちの生活圏に対して、単に生物としての「縄張り」という以上の意味を――つまり「自分が帰るべき場所」という意味を見出し、時に強く執着し、これを守るために戦うという、ある意味では非常に特殊な生き物であるということも、「家族」や「故郷」といった言葉が象徴するところのものだと思います。もちろん、タドリのように一度故郷を失って以来、特定の生活拠点を持たずに各地を転々とする、という者もいますから、この命題は普遍的なものではありませんし、あるいはモンスターの側にしても、こちらから見る限りでは「縄張りを守っている」としか見えなくても、彼らも同様にそうした観念を有している可能性を否定できるわけではありません。

 

もしくは、そうした観念を持ち自分たちの居住地を守るということも、広い意味でそれは人類の「生態行動」に含まれるのだ、という主張にも、十分に理があります。必ずしも人間だけが、この世界において特別な精神構造を持っているわけではなく、その認識はたんなる傲りなのかもしれない。それでも「家族」や「故郷」という言葉からは、モンハン世界で「人類」として生きているとはどういうことなのかということを、色々と考えさせてくれるものがあるんですよね。

 

3.クエスト帰還後の仲間たちの会話

 

さてここで、クエスト帰還後のエルガドやカムラの里の皆の会話も聴いてみましょうか。

 

原初たるメル・ゼナ…。キュリアを殲滅するため 暴れていたと聞きました。
さぞかし血が騒ぐ光景だったのでしょうね。もし私が目の当たりにしていたら、興奮のあまりどうにかなっていたかもしれません。

……コホン。ともあれ、○○様こそ王国の大恩人。心よりお礼を申し上げます。

(「滅浄の裁き」クリア後 ルーチカ)

 

どういうこと……? ルーチカはあくまでも、狩場で武器を取って狩猟をすることにテンションが上がるのだと思っていたのですが、モンスターが別の何かと戦っている光景を見ても興奮するんですね……。まぁ、彼女はモンスターの生態の知識も豊富ですから、それを間近で観察できることにテンションが上がるという話なのかもしれませんが、うーん……単純に血沸き肉躍る感じの光景が好きなのかも……。

 

提督がフィオレーネさんに話したこと、覚えてますか? ものすごくタメになる話でしたよね!?

提督は「胸を張れ」って話してました。それって、もっと大胸筋を鍛えろってことですよね!?

オレも提督の大胸筋に追いつけるように、筋トレに励みますよ!

(「滅浄の裁き」クリア後 ジェイ)

 

違うジェイくん、そうじゃない。彼は自分でも「勉強はニガテ」だと言っていましたが、まさか「胸を張る」という慣用句を知らないなんてことは……。それとも、普段あまりにも筋トレに力を入れすぎているあまり、「身体の部位=筋肉の話」という図式が彼の中で出来上がってしまい、筋肉センサーが発動してしまっているのでしょうか。ルーチカにしてもジェイにしても、クエスト帰還後の会話はなんかこう微妙に緊張感のない台詞が印象的です。まぁ、もちろん任務の間は真剣に取り組んでいたでしょうから、メル・ゼナ周りの一件がひと段落して、彼らも少し肩の荷が下りたという心持なのかな。

 

ガレアスもフィオレーネも、もう少し肩の力を抜けってんだ。
ガレアスなんざ、ずっと背筋をのばしてしかめっ面のままだぜ。もう顔も体も 固まってんじゃねーか?

こないだヒノエさんに聞いたんだけどよ、カムラの里の近くには 固くなった体をほぐす いい温泉があるらしいじゃねーか。

最大の危機ってのも無事に去ったんだ。久しぶりにガレアスを誘って、のんびり温泉に行ってくるとするか!

(「滅浄の裁き」クリア後 アルロー)

 

アルロー教官は相変わらず、大真面目な表情をしているガレアスとフィオレーネのことが気になっている様子。特に親友のガレアスに対しては、冗談めかした言い方をしていますが、もう少し緊張を緩めて気を楽にしてほしい、と思っているようです。で、カムラの里の近くの温泉に……とガレアスを誘おうとしているようなのですが、その前にヒノエから温泉の話聞いてるアルロー面白すぎるだろ。ここにきてまさかのそこ絡みあったんだシリーズですね。アルローは以前から「猛き炎やウツシ教官を輩出したカムラの里は一体どんなところなのか」と興味津々で、ジェイを連れて修行に行こうか、とも言っていましたから、ぜひともカムラの里に旅をしに来て欲しいところです。

 

お前さん、ようやってくれたのぃ。おかげで深淵の悪魔のおとぎ話も 真相が判明したわい。
地中のうめき声に怯えていた人々が、大穴に飛来し悪魔を撃退したメル・ゼナの姿を見て、英雄とたたえていたわけじゃな。

じゃが、多くの者にとっては大穴の原因がメル・ゼナとしか思えんかった。誰も悪魔の姿を見ておらんのじゃからな。

それゆえ、年月を経る間にメル・ゼナの圧倒的な強さのみ畏怖をもって語り継がれ、「元凶はメル・ゼナ」となったわけじゃ。

お前さんのおかげで歴史に埋もれた真実を、またひとつ知ることができたわい。感謝するぞい。ふぉふぉふぉ。

(「滅浄の裁き」クリア後 パサパト)

 

深淵の悪魔にまつわる王国のおとぎ話の真相を知ることができた、と喜ぶパサパト。王国の生き字引であり歴史学者のある彼にとっても、メル・ゼナの生態についてはこれまでは全く未知のものであり、メル・ゼナがかつては王域の英雄として称えられていたということは、今回の件で初めて明らかになった事実。それは考えてみれば当然のことで、大昔には今ほど情報を子細に残すことができるような媒体や、精密な調査を行うことができるような研究設備などがあったわけではなく、その時代の人々は伝承や神話、おとぎ話といった物語を編むことによって、人知を超えた存在や出来事に向き合い、語り継いできたわけです。

 

それゆえに、人の目に移った限りのものと、実際の事の真相はしばしば相違をきたすこともありますし、長い時を経て語り継がれていく中で、その本来の意味が忘れ去られて抜け落ちたり、その時々の価値観に影響されたりなどして内容が変わってしまうこともある。数百年も前から続くカムラの里の百竜夜行が、「モンスターの大群が人里を襲う災い」であると言い伝えられてきたものの、猛き炎の時代においてようやく「風神龍と雷神龍の影響によるモンスターの大移動」であるという真実が判明したというのも、それと同じことですね。人と自然の関わり、人が自然の中で生き抜いてきた証としての人類史を紐解くにおいて、伝承というレンズを考慮しなければならないということが、彼との会話から改めてよく分かります。

 

ついにやり遂げたな、猛き炎よ。貴殿のおかげで我が任務も一区切りついた。
ふむ…今回の件、じつに良き物語となりそうだ。脅威に対して一丸となる王国… 猛き炎の活躍で明らかになる爵銀龍の真実。

我が直々に筆をとって、書き上げてみるか。深淵の悪魔のおとぎ話のように、未来にも語り継がれる物語をな。

しかし、我は作家としては素人…。貴殿の里に、文才のある人物がいれば紹介してもらえるとありがたい。

(「滅浄の裁き」クリア後 セルバジーナ)

 

セルバジーナは今回の皆の活躍を、王国の新たな物語として書き残したいと考えている様子。彼、出発前は「我と猛き炎の物語に……」とかノリノリで言っていましたが、いざ事が終わってみれば「王国のみんなの活躍を残したい……」なの、セルバジーナの根の優しさがあふれ出ていますよね。

 

さて、書き残すといっても、彼は作家として筆を執った経験があるわけではなく、自分は素人なので誰かに代筆を頼みたいと思っているようです。騎士としては超一流の実力を持ちながら、専門外のことについてはできないものはできない、と素直に言い切るこのサッパリとしたスタイルは、さすが根拠のある自信しか持たない男セルバジーナといったところ。

 

ところで、カムラの里で文才のある人物といえば誰が思い当たるでしょうか。この手の文芸に親しんでいる人といえば、俳句が趣味で句集を出版できるほど上手と噂のイオリくんがいますが、俳句は十七音の限られた器で表現をする芸術ですから、散文で長い内容を書く叙事詩などといったものとはまた性質が違ってくるでしょう。俳句よりももう少し、長めの文章を得意とする人物がいればよいのですが……。

 

いた

イカの誰にも真似できない奇抜な文才は、果たしてセルバジーナの意に適うものになるでしょうか。

 

それから、今後の観測拠点エルガドについてですが、王域内でのキュリアの影響が徐々に沈静化していくにつれて、今回の異変の調査拠点としての役割は終わりを迎えていくことになるでしょう。これに伴って、今はエルガドにいる皆も、いずれまたそれぞれの次なる道を歩んでいくことになります。そんな仲間たちの今後についても、何名かご紹介。

 

王国最大の危機を救うご活躍で、ここエルガドにも活気が戻りました。私も心からうれしく思います。

カムラの里と王国に迫る危機は 峠を越しつつあります。

しばらくしたら私も旅立とうと思います。貴方をみて、私も薬学をより深く学び、もっと多くの方を守ると決めたのです。

(「滅浄の裁き」クリア後 タドリ)

 

王域の異変がひと段落するのを見届けたら、タドリはまた旅に出たいと考えているようです。元々タドリは故郷であるツキトの都を失って以来、特定の活動拠点を持たずに各地を転々としながらフィールドワークを行うというスタイルであり、エルガドでの長期滞在は彼にとっては珍しい機会。いっそエルガドなり、カムラの里なりをこの際拠点としてみては、とも思うのですが、旅を続けて多くの人を救う薬師になるということが、彼なりの「故郷」への向き合い方なのですよね。

 

王国最大の危機が去って、タドリ師匠がまた旅に出るって言うんだ。本当は俺もついて行きたいんだけど…。

じつは、俺も王国から依頼を受けててさ。ここに座ってるのも任務の一環なんだけど、今はあんまり任務とは思ってなくてね。

…というのもエルガドの人も景色も心地よくてさ。ここにこうしていると、なんだか安らぎを感じるんだ。

そんなわけで、雑貨屋オボロはもうしばらくエルガドで商売を続けるよ! じゃんじゃん買っていってね!

(「滅浄の裁き」クリア後 オボロ)

 

一方、タドリの弟子であるところのオボロは、剣の腕前を見込まれてエルガドでのチッチェ姫の護衛という極秘任務にありましたが、エルガドでの調査隊の任務が終われば、チッチェ姫もお城に帰ることになるでしょうから、オボロもその役目を終えることになります。しかしながら、当初は任務のためにエルガドにいた彼も、すっかりここの空気を気に入ったようで、今後もしばらくはエルガドに留まるということ。師弟でちょうど対照的な道を選んでいるのが印象的ですね。

 

さて、そのチッチェ姫についても、彼女は元々今回の異変に際して前線を支えるためにエルガドに赴任していましたから、その収束の目処がたった今、彼女もいずれは王都のお城に戻る日がやってきます。「危険な前線」と「安全なお城の中」について色々と悩むところも多かったチッチェ姫ですが、原初を刻むメル・ゼナの調査を経て、自らの今後について迷いがなくなったようです。クエストクリア前・後の台詞を併せてどうぞ。

 

わたくし、姫として過ごしていた頃は、城で危機を告げる報せを聞くだけの日々に、どこか罪悪感を感じていました。

みなが前線で死力をつくしている時に、ただ安全な場所で悶々とするだけでいいの? …と、そう考えていたのです。

ですが、今回は女王陛下が自ら指揮をとり、王国の英知を結集して調査にあたりました。それにより、危機の全貌が見えたのです。

王都の城だからこそ、できたこと…。前線にいるだけでは成しえないことです。城にも前線にも、役割があるのですね。

(「滅浄の裁き」クリア前 チッチェ姫)

○○さんのおかげで、国難は去り、この国はまたも救われました。何度お礼を言っても言いたりません。

危機が完全に去り、平穏が訪れれば、わたくしも城に戻ることになるでしょう。ですが、以前とは違います。

もう、安全な場所だからと、罪悪感を感じることはありません。

城にいるからこそできること、姫だからこそできることを見つけ、皆さんのお力になるよう頑張るつもりです!

(「滅浄の裁き」クリア後 チッチェ姫)

 

チッチェ姫は元々「安全なお城の中で守られるばかりでなく、自分も前線で皆を支えたい」という想いから、受付嬢としてエルガドに赴任し、目下の脅威となるモンスターに立ち向かう王国騎士たちや猛き炎、拠点の仲間たちにとって、なくてはならない存在として活躍しました。

 

一方で王都の女王陛下や文官たち、そして特命騎士たちも、原初を刻むメル・ゼナが討伐クエストとしてエルガドに指令が下りる以前の段階において、その追跡と調査を行い、また王国のおとぎ話についても未発見部分の解明を行い、このモンスターが王国にもたらす危機を明らかにしました。彼女らの尽力がなければ、メル・ゼナによる被害はさらに拡大してより多くの負傷者を出していたでしょうし、対処が遅れるにつれてメル・ゼナの力が増大し、前線は作中で狩猟したものよりも更に強大な個体と対峙することとなり、より多くの負担を強いられることになったかもしれません。

 

集中的な調査研究によって王国を護ったというこの大仕事は、日々さまざまなモンスターへの対応と調査研究に追われる前線の人的リソースでは、決して達成できることではなかったでしょう。チッチェ姫は観測拠点への赴任以来、「前線にいるからこそできること」で皆を大いに支えてきましたが、彼女のエルガドでの成果はそれだけではなく、自らの足で前線に立ってみたことで初めて、逆説的ではありますが、「前線にはできず、城だからこそできること」の存在にも気づくことができたのです。これは、チッチェ姫がずっとお城の中にいても感じることはできなかったであろう気づきであり、今回の彼女自身の歩みによって得た学びに他なりません。

 

前線と城との違いの本質とは、「価値の差」でもなければ「負担の差」でもなく、「役割の差」であるということ。カムラの里の「里を護るとは 狩るのみにあらず」の精神が、ここにも脈々と流れています。以前のチッチェ姫の記事で紹介しましたが、彼女は受付嬢として危険な最前線に赴任してもなお、結局のところ自分自身がモンスターを狩りにいくわけではないということから、危険な任務を皆に託すということについて、少々の自己嫌悪を抱いているフシがありました。むろん、それは彼女の優しさと、王女としての責任感によるものではありますが、そんなチッチェ姫に、カムラの里から一通の便りが届けられたのです。

 

…○○さん。わたくし、王女でありながら、危険な任務を騎士の方々に託すばかりで…

皆を護るために狩りにいけない自分を、もどかしく思っていました。

ですが、先日届いたロンディーネからの手紙に「"護る"とは狩るのみにあらず」と書かれてあって、気持ちが軽くなりました。

カムラの里の、里長様のお言葉だそうです。きっと力強く、優しいお方なのでしょうね。わたくしもいつか…そのようになれたら…。

[後略]

(マスター★1ヨツミワドウ前 チッチェ姫)

 

悩めるチッチェ姫のことを気遣って、ロンディーネから送られたこの手紙、地味ながらとても好きなシーンなんですよ。カムラの里と王国との交流において、里の技術のみならず、その精神もが受け継がれているということ。ロンディーネが密命を帯びた王国の使者という立場を超えて、心からカムラの里に愛情を持ってくれていることがめちゃくちゃ伝わってくるんです。受付嬢は直接狩りには出向かないけれど、受付嬢がモンスターの情報を整理して伝え、クエスト受注の手続きを行わなければ、騎士やハンターはクエストに行くことができない。チッチェ姫の話にあった「前線」と「城」との関係も、この「騎士/ハンター」と「受付嬢」との関係の類比と言える部分があるかもしれませんね。

 

それから、忘れてはいけないのが、本作の主人公ハンター「猛き炎」の今後について。いちおう、キュリアの脅威が沈静化するまでは傀異化モンスターや傀異克服古龍は引き続き出現しますから、当分はエルガドでハンターの仕事をする、という感じに作中ではなっていますが、それはそれとしてフィオレーネから、「共に王都に行こう」との誘いを受けています。

 

この国をまたも救ってくれた。○○、改めて礼を言わせてくれ。

私はこの国の人々が好きだ。みな懸命で、誇り高く、そしてあたたかい。私の大切な宝物だ。

○○はまだ、王都には行ったことがないだろう? いつか、共に行こう。

貴殿に私の大切な人々を紹介させてほしい。みなも「猛き炎」に会いたがっている。ふふっ。きっと歓待の宴は盛大になるぞ。

(「滅浄の裁き」クリア後 フィオレーネ)

 

フィオレーネさんも原初メル・ゼナの狩猟では大活躍でした。共に王国を護った仲だからか、この台詞の彼女の話しぶりも、何だか今までにないような柔らかさを感じるんですよね。メル・ゼナとの因縁だとか、思い詰めた使命感のようなものとかから解き放されて、温かく力強い「騎士の誇り」で満たされている感じといいますか。

 

フィオレーネによれば、猛き炎に会いたがっている人々は王都にも多くいるとのこと。王都にいる女王陛下にしても、猛き炎に宛てて大長文の感謝の手紙を執筆していて届くにはしばらくかかるとのことですから、このサンブレイクのお話には、まだちょっとだけ「猛き炎の王都来訪編」的な続きがあるような気がするんですよね。公式サイトなり、いずれ刊行されるであろうサンブレイク設定資料集なりで、その辺りのエピソードが公開されたりするのかな、と少し楽しみにしています。

 

また、フィオレーネはカムラの里のフゲン宛にも、一通の手紙を送っていたようでして……。

 

○○よ! 王国を襲った機器もみごとに退けたな。さすがは猛き炎だ!

フィオレーネ殿から、その活躍を記した書状が届いていてな。オマエとの強い絆が伝わる、じつに情熱的な文章だった。

オマエがハンターとなった日を 昨日のことのように思い出すな…。心の底から、誇らしく思うぞ。

(「滅浄の裁き」クリア後 フゲン)

 

情熱的な文章ってなんだろう……。フィオレーネの文章というと、サンブレイクの新モンスターの初登場ムービーの口上は、アマツマガツチを除いてフィオレーネが担当していますが、もしかしてあのポエムみたいな感じの文面なのでしょうか……。果たしてどのような内容が書かれていたのか、非常に気になるところです。

 

カムラの里の人たちの会話も、少しご紹介しておきましょう。

 

あの赤ん坊がハンターになって、何度も里や王国を救って… じつに感慨深いでゲコなぁ。

おぬしを見とるとね、ワシの狩猟魂が燃え上がってくるでゲコ。復帰しちゃおっかな…でゲコ。

(「滅浄の裁き」クリア後 ゴコク)

 

主人公の活躍を見て、とうとうハンター復帰を考え始めるゴコク。かつて共に狩場を駆けた仲間も、既に盟勇として狩場に出かけているフゲンはもとより、ハモンやコガラシも同様に、ハンターの血が騒ぐ的なことを言っていたことがありましたから、これはいよいよカムラの伝説のチーム復活もあり得るかもしれません。カムラの里のベテラン勢、マジで色々と強すぎる……。

 

ベテラン勢つよすぎシリーズでもう一方。

 

50年前の百竜夜行でしぶとく生き残ったかいがあったというものだ。おぬしという英雄の活躍を見られたからな。

猛き炎の物語… あの世へのいいみやげ話になる。先に逝った里の連中も、さぞ喜んで耳を傾けるだろう。

…勘違いするなよ。まだ死ぬつもりはない。少なくともあと50年は生きねば、つくりたい物をつくりきれんのだ。

(「滅浄の裁き」クリア後 ハモン)

 

あの世だなんてそんな話……と一瞬思ったら、本人曰く「あと最低でも50年は生きる」つもりらしいので安心しました。というかなんなら50年後もまた「あと50年は生きるつもりだ」とか言ってるんじゃないでしょうか。加工技術の巨匠でありながら随一の求道者でもあるハモンさんの、加工の道に終わりはないと思いますから。

 

どんな危機にも決して怯まず立ち向かう…。あなた様のそんな姿に勇気づけられた方は 数えきれないほどにいるでしょう。

何を隠そう、私もそのひとりです。風神龍の一件のとき、つらい中でも笑顔でいることができました。

あなた様の炎のような生き様が、みなの心に明かりをともし、笑顔の花を咲かせる…。

花々を照らす、優しい灯火。○○さんは、まさに花篝(はなかがり)…ですね。

(「滅浄の裁き」クリア後 ヒノエ)

 

ヒノエさんも相変わらず、バッチリメインヒロインをしています。この会話で注目したいのは、彼女はここで過去形の形ではあるものの、「風神龍との共鳴はつらかった」と明言していることなんですよ。イブシマキヒコと共鳴して以後のヒノエは、共鳴の影響で体調が優れないにもかかわらず、里の皆の不安な気持ちを取り除こうと、つとめて明るく笑顔に振る舞っていました。主人公に対しても、少しだけ甘えてみるような素振りを見せつつも、つらい顔は心の内にしまっておくというような、そういう感じだったんですよね。

 

それが、ここでは過去の話ではありながらも、はっきりと「つらかった」という気持ちを口にした。主人公がエルガドでの仕事で里にいない間、ヒノエはずっと主人公のことを考えてくれていましたから、王国の一件がひとまず落ち着いたということで、猛き炎に少し寄りかかりたい、という気持ちが募っていたのかな……まぁ実際のところ、彼女は傀異討究クエストでほぼ毎回のように盟勇として同行してもらっていたので、里に帰ってもあまり久しぶり感がないのですが……。いずれにしても、またヒノエの記事でも書く予定ですが、ライズの物語が終わった後も、主人公とヒノエの距離感が少しずつ変化していっているのが良いんですよね。やっぱりメインヒロインじゃん……。

 

数々の脅威を退けたあなた様は、まさにハンターの頂(いただき)に立つ存在…。まこと誇らしく思います。

女神であるヒノエ姉さまと比べれば いたらぬところも多々あるとは思いますが…

わたくしなりに精いっぱい あなた様を支えていく所存です。これからも、そばにいさせてくださいませ。

(「滅浄の裁き」クリア後 ミノト)

 

続いては妹のミノトの方。姉のヒノエのことをとうとう「女神」とリアルに神格化し始めたので何事かと思………いはしませんでしたが(これがミノトの通常運転ですから…)、それにしても突然女神という表現を使ってきたのは、これはおそらくですが、原初を刻むメル・ゼナが王国のおとぎ話で「鬼神」と形容されていたので、これに対抗して「女神」と言い始めたのかなぁと思います(※)。いやまぁ、だとしたらなんでそこで張り合ったんだという話ではあるわけですが。

 

※完全にただの余談ですが、ファイナルファンタジーⅥには「三闘神」という魔法を司る神々がおりまして、その三神の名前がそれぞれ「鬼神」「魔神」「女神」という名前になっています。モンハンとは恐らく関係はないと思いますが、なんとなくFF6を思い出す響きでした。

 

それはともかくとしても、ここのミノトの台詞、何となく以前とは雰囲気が変わったような気がしますね。彼女はかつては尊敬する姉に対しての劣等感に悩んでいる時期もありましたが、そこから少しずつ、自分は自分でよい、と思えるようになって、自信がついてきた感じがするといいますか…。その辺のお話もいずれ、ミノトの記事で詳しく書いていきたいと思います。

 

4.「原初を刻むメル・ゼナ」の考察

 

原初を刻むメル・ゼナについても少し話しておきましょうか。

 

筆者が気になっていることの一つが、このモンスターのハンターノートにおける記述。

 

 

キュリアの浸食が始まると彼らを「使役するようにして」とありますが、原初を刻むメル・ゼナは通常個体のメル・ゼナと違いキュリアと共生関係にあるわけではなく、しかも最初から「王域を侵す外敵」として認識し排除しようとしています。原初メル・ゼナはキュリアに浸食されている形態において、ホーミングキュリア球やキュリア付きレーザーなど、キュリアを飛ばしてハンターに攻撃するアクションを用いますが、原初メル・ゼナとキュリアとが共生関係ではないこと、少なくとも原初メル・ゼナ側にそのつもりがないことを考慮した場合、原初メル・ゼナがキュリアを「使役」していると表現することには少しズレがありますし、だからこそここで「使役して」ではなく「使役するようにして」と記述されていることの意味を考える必要があります。

 

筆者としては、原初メル・ゼナのキュリアを用いた攻撃は、原初メル・ゼナがキュリアとの共生を受け入れてキュリアを使役しているのではなく、キュリアの影響で余裕がなくなりつつある中で、自身にまとわりつくキュリアを一旦他の生物になすりつけてでもキュリアの浸食から脱しようとして、キュリアを他の生物目がけて飛ばすという行動をしているのではないか、という説を考えています。まぁ、作中に明確な根拠が特にあるわけではないのですが、原初メル・ゼナはキュリアの浸食を受けながらも理性を保っていますし、その上で「使役しているように見える」けど「原初メル・ゼナ自身はキュリアを拒もうとしている」という矛盾を整合するとすれば、この辺りが妥当になるのかなぁ…という話です。

 

次に、王国のおとぎ話の「鬼神」の部分について。

 

(「滅浄の裁き」クリア前)

この「滅浄」という表現、特に確たる根拠もない筆者の個人的な印象なのですが、なんとなくMHWネルギガンテ感があるんですよね(以下、MHWシリーズの内容を含みますのでご注意ください)。滅尽龍ことネルギガンテは他の古龍種を積極的に捕食する生態を持つ古龍であり、その行動が自然界においては、生態系における一部の生物の突出を抑制するという形で自浄作用の役割を果たしていると考えられている存在です(もちろん、ネルギガンテ自身がその役割を自覚的に負っているわけではなく、結果的にそうなっている、という話)。

一方の原初メル・ゼナも、彼自身としては自身の縄張りである王域からキュリアという外敵(あとそういえばガイアデルムとかいう奴もいたな…)を追い出そうとしているのですが、これが結果的には、寄生した諸生物の寿命を縮めたり大型モンスターを暴走させたりすることで王域の生態系のバランスを破壊する、キュリアという地底からもたらされた異物を排除する、ということにも繋がっていて、ここで一種の自浄作用を形成していると考えることができるんですよね。

 

ライズ-サンブレイクは前作のワールド-アイスボーンと並行的に製作されていて、これをかなり意識している部分もある作品ですから、ネルギガンテを意識させるような、ワールド的な生態系描写の要素をここに入れてきた、という雰囲気をかなり感じるポイントでした。

 

まぁ、ワールドとライズの対比という話をすると、本来ネルギガンテと対比されるべきは、同じく上位ストーリーのメインモンスターであり、マガラ骨格で前脚が重厚、好戦的な性格という共通の特徴を持ち、大移動する他の大型モンスターを狙って捕食するという作中の描写(ネギは渡りの古龍、マガドは百竜夜行)でも似ているマガイマガドですし(マガドは牙竜種の部分もあるけど)、メル・ゼナと対比される存在は同じくMRストーリーのメインモンスターであり、ドス古龍骨格で鋭利な尻尾を武器として行使するという共通の特徴を持つイヴェルカーナであるべきなので、これまた何とも言えないところなのですが……。まぁ、サンブレイクはイヴェルカーナは参戦したもののネルギガンテは参戦できませんでしたから、せめてこういう所で面影だけ登場、という形にしてくれた……みたいな話だったらいいなぁと思います。

 

それから、今後のエルガドの当面の目標は、今回の異変の元締めであるキュリアの影響の鎮静化であり、こいつらの勢いが収まる気配ないだろという感じで現在も暴れておりますが、今回の一件を見るに、その収束の見込みも幾分かは立ちつつあると言えそうです。

 

 

原初を刻むメル・ゼナに取りついたキュリアは、最終的にはメル・ゼナを傀異克服古龍のような姿に急激に変化させうるほどの進化を遂げている様子でしたが、逆に言えばそうして強引にでも古龍からエネルギーを引き出さねばならないほど、キュリアという種も追い詰められてきている、ということでもあるように思います。

 

「滅浄の裁き」クリア後のムービーで、小さくてあれだけすばしっこく飛び回るキュリアを、人間でも直接攻撃して倒すことはできるらしいということが判明しましたし(フィオレーネや猛き炎のようなプロハンでないと無理説はなくもないですが)、キュリアの毒に対する特効薬などの開発も研究所の方で進んでいるでしょうから、今後は王国騎士団内でもキュリアを直接狩猟するという任務が行われる可能性はあるでしょうし、王域に棲むメル・ゼナの方も、今回のように今後も縄張り内のキュリアの排除に動いていくでしょう。

 

しかしながらその場合、現在王域に混在していると思われる、通常個体のメル・ゼナと原初を刻むメル・ゼナとの関係がどうなるのかは気になるところ。MRストーリーで出会った通常個体(キュリアと共生している)のメル・ゼナも、作中でガイアデルムの出現の予兆を感じて城塞高地に飛来しているあたり、キュリアの影響で攻撃性が高まってはいても理性を完全に失っているわけではなく、王域の守護者としての役割を果たしています。その意味では、通常個体メル・ゼナも原初メル・ゼナも変わるところはありません。

 

しかしながら、両者はキュリアを共生相手として認識しているか、外敵として認識しているかという違いがあります。王域内のメル・ゼナ同士は元々は、おそらくは広い王域の中で互いに縄張りを分割して生息しているという感じでしょうから、同種間での縄張り争いというのは考えにくい種ではありそうですが、キュリアと共生している個体とそうでない原初個体がもしかち合うようなことがあった時に、原初個体側がキュリアを排除しようとして襲い掛かる形でメル・ゼナ同士の争いになったりしないのだろうか…というのは少し心配でもあります。

 

とはいえ、メル・ゼナとの安定的な共生関係に既に落ち着いているキュリアは進化種ではないでしょうから、個体数も少ないこともあり、周囲のモンスターを傀異化させて王域の生態系を乱すほどの能力はないでしょうし、キュリアは王域を荒らす限りにおいて外敵と認識しているということであれば、同種間での無用の争いを避け、メル・ゼナ同士で互いに手を出すことはしない、ということもあり得るのかな。キュリアも一応自然界の一部ではありますから、今回のゴールはキュリアの絶滅ではないと思いますし。まぁ、メル・ゼナの物分かりの良さに期待しすぎている感はありますが、そのあたりのことをわからないメル・ゼナではないと思うんですよね。

 

……とまぁ、非常にヌルッとした考察でしたが、原初メル・ゼナについての話はいったんこの辺りということで。また何か思いついたら備忘録的にここに書き足していこうと思います。

 

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ということで、本記事はこの辺りで〆とさせて頂きたいと思います。アプデ後は原初メル・ゼナのTAなど動画を作りたいものがあり、アプデから10日ほど空いてしまいましたが、どうにか投稿に至りました。お待ち頂いた方大変申し訳ない……。本ブログでは今後とも、ライズ・サンブレイクのキャラクター考察の記事を全員分投稿していく予定ですので(まだ全然終わってないけど)、引き続き生暖かい目で応援して頂けますと幸いです。風の噂ではTGSで新作の発表があり、来年のいつ頃かには発売されるかも? ということなので、ひとまずこのブログは年内をめどに完成させたいですね……がんばれ私。

 

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。また別の記事でお会いしましょう!