双璧の絆

※注意事項※

・本記事はモンスターハンターライズ:サンブレイク」全編のネタバレを含みますのでご注意ください。
・本記事でのキャラクターや人間関係、世界観の考察に関しては、作中で判明する設定を基にした筆者の推測を含む箇所が多くありますことをご了承ください。
・筆者は2021年12月17日発売の『モンスターハンターライズ 公式設定資料集 百竜災禍秘録』を未読の状態で執筆しております。
 現在または今後公開される公式設定が、本記事での考察内容と明確に異なる(=本記事での考察内容が誤りである)ことがある可能性がありますことをご了承ください。
・本記事の内容は、記事を改訂すべき点が発見された際には、予告なく加筆修正を致します。

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お久しぶりです。生きてます。本記事ではエルガドの提督であるガレアスと、教官のアルローの二名を紹介していきたいと思います。彼らは同郷の親友で、かつて自分たちの故郷(今の城塞高地)をメル・ゼナに滅ぼされた苦い経験があり、その悲劇を繰り返さないよう、王国騎士団の双璧として活躍しています。多くの騎士たちを統率する身でありながら、誰にも負けない熱い心と故郷への想いを内に秘め、まさにロマンスグレーという言葉が相応しいこの2人。今回はそんなガレアスとアルローの人となりと、彼らの間に結ばれた厚い友情の物語を追っていきたいと思います。

 

ーーーー目次ーーーー

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1.王国騎士団提督・ガレアス

 

ということで、まずは提督ガレアスのお話から。彼は王国騎士団の長にして、観測拠点エルガドのリーダーの立場にある存在です。ガレアスとの世間話の特徴として、会話の先頭にほぼ必ず「……」という間が入るというものがあります。彼の寡黙な性格を表現する、テキスト上の演出ですね。あまり多くを語らない性格とその威厳ある佇まいから、少しとっつきにくいという印象を抱きやすい(特にガレアスの場合、豪快で親しみやすい人柄のフゲンと比較されてしまいやすいということもあり)のですが、色々と話を聞いてみると彼は口数が少ないだけで決してただ厳格で冷たい人物などではなく、提督としての厳しさの中に、エルガドの皆を思い遣る優しさと繊細さを兼ね備える人物であることが見えてくるようになります。

 

ガレアスの印象的なシーンといえば、まずはサンブレイクの物語序盤、ビシュテンゴ亜種の狩猟の前にフィオレーネを叱る場面ですね。騎士としての使命に燃えすぎるあまり自らの生命を軽んじてしまう彼女に厳しい態度で忠告するガレアスですが、会議を解散した後の彼は、フィオレーネのことをとても案じていました。

 

……貴殿の前で声を荒げてしまい 驚かせたことだろう。すまなかった。
……もし時間があったら フィオレーネの様子を気にしてほしい。……よろしく頼む。

(マスター★2緊急前 ガレアス)

 

先ほど忠告したとはいえ、生真面目なフィオレーネが任務先で何か己を顧みない行動を取ってしまわないかどうかという心配。そしてそれに関しては決して悪気があるわけではなく、基本的にとても優秀な副官であるフィオレーネを珍しく怒鳴ってしまったことや、危うさを孕んでいるとはいえ、騎士としての彼女の思想を真っ向から否定してしまったことが彼女にとっての挫折に繋がってしまわないかどうか……といった、自分自身についての内省。「猛き炎」にフィオレーネのフォローを申し訳なさそうに頼む2行目からは、そうしたガレアスの様々な配慮を感じることができます。

 

…研究員の不手際だ。自業自得だろう。
しかしとても優秀なヤツだ。救出の手助けをして欲しい。……よろしく頼む。

(マスター★2アンジャナフ前 ガレアス)

 

続いては研究員のバハリについてのガレアスのコメント。水没林に調査に向かってピンチになってしまったバハリに、「やれやれ……」という様子のガレアス。バハリとガレアスは旧知の仲であることがアナザーストーリーで語られており、バハリのこうした行動について、彼は提督という立場としてはあまり褒められたものではないという態度ではあるものの、本人の私情としては、本心から呆れているというよりは「またあいつの悪いクセか……」というくらいの気持ちであるように思われます。

 

で、そのバハリを救出に向かったものの、結局連れ戻すには至らずに帰還した主人公に対して、ガレアスは次のように話しています。

 

……救出が来たにも関わらず バハリは帰ってこなかった。……呆れてものも言えん。

しかし、今回の任務を通して フィオレーネも己を軽んじる件に関して理解してくれた。

貴殿の任務は無駄ではなかった。……引き続き調査を頼む。

(マスター★2アンジャナフ後 ガレアス)

 

主人公は水没林にて周辺の安全を確保し無事にバハリを発見することはできたものの、彼は調査を続けると言ってそのまま現地に留まってしまったため、エルガドに連れ帰るという任務を達成することはできませんでした。

 

一応ガレアスとしても、バハリは無茶をこそするものの引き際は絶対に見誤らないということに関しては信頼しているでしょうから、主人公の活躍で当面の危険は退けられたということで、バハリの件に関してはひとまず大丈夫だろうという判断を下しているのでしょうが、現地に実際に救出に向かった主人公としては、特に何か落ち度があるわけではないにしても、バハリを連れ帰るという任務の最終目的までは達成できなかったということで、何かやりきれない気持ちを抱いているようにガレアスには思われたのかもしれません。

 

そんな主人公の心情を汲んで、ガレアスは「フィオレーネのためになった」と励ましてくれます。着任から未だそれほど日が経っているわけでもなく、エルガドにて自分の役割を果たし成果を上げる、ということにまだまだ十分に自信を持てているわけではない主人公にとって、こうしたガレアスのさりげないフォローはとても嬉しいはず。

 

フィオレーネを叱った後の話にしても、バハリを連れ戻せなかった一件にしても、主人公に対して聞かせてくれるガレアスの言葉は短いながらも、仲間を労わる気持ちに富んでいます。ガレアスは寡黙な人柄で、悪い言い方をすると口下手な人物ではあるのですが、それはただ単に自分の考えているところを話すのが苦手という説明だけで終わらせるよりは、むしろ彼は話すことよりも考えることの方に比重が大きい人物であるといいますか、頭の中で色々と思慮をめぐらせている中から丹念に言葉を紡ぐというタイプの人物で、それが結果的に「口数が少ない」という形で現れている、という一面があるのではないか、という解釈もできるのかなぁと思ったりするんですよね。

 

話を戻しまして、ガレアスはバハリのギリギリまで無茶をするフィールドワークのスタイルについてはともかく、研究者としての実力については全幅の信頼を置いています。……と同時に、フィオレーネと同様、バハリが己の体調を顧みずに徹夜で研究をし続けてしまうことにはやはり心配もしている様子。

 

……小動物のようなものが噛みついたせいで暴れている…か。

この短時間で小さな変化を見逃さずに 調査を進めてくれている。……さすがだな。

サンプルはバハリに任せる。貴殿にはモンスターの狩猟を頼む。

(マスター★3イソネミクニ亜種前 ガレアス)

 

……よくやってくれた。貴殿のおかげでキュリアの捕獲が完了した。

あとはバハリに任せよう。……あまり無理はして欲しくないが 3日は徹夜で研究してしまうはずだ…。

(マスター★3イソネミクニ亜種後 ガレアス)

 

バハリやフィオレーネのことが日に日に心配なガレアスは、主人公にも「二人のことを見ていてほしい」とお願いするようなシーンもあります。

 

……再び、王域三公のお出ましだ。今回もバハリと分担し モンスターの狩猟とキュリア捕獲を頼む。

フィオレーネもバハリもムチャをする。……○○殿、ふたりを気にかけてほしい。

(マスター★4緊急前 ガレアス)

 

己の身を削るような働き方はしてほしくないと思いつつも、一方でそれほど職務に熱心な彼らの意志をむやみに否定することは、かえって彼らの美点や個性を損なってしまう、ということにもなりかねず、なかなか伝え方が難しいところ。ひとまず個々人の裁量に任せつつも、本当に限度を超えて身をすり減らすようなことにはならないよう見守るということにしようか……という感じで、主人公にもその意を伝えています。主人公は元々王国関係者ではないため特に彼らと上下関係があるわけでもなく、かつ共に現地で仕事をすることが多いので、そんな主人公だからこそ却って彼らが気を許せるという部分もあるのではないか、ということも織り込んであるような気がしますね。

 

最初こそやや掴みづらい人物であるガレアスですが、物語が進むにつれて、彼にとっての主人公が「自分の心の内を幾ばくかでも共有できる相手の一人」という存在になっていっているような印象があります。先の件に限らず、ガレアスが主人公に対して信頼を置いていることが分かる台詞はいくつもあるんですよね。

 

……ついに王域三公が相手だ。準備を怠るな。
貴殿の腕前ならばなんの問題もないだろう。私がそう判断し、任務を依頼したのだ。……気負わずに行ってこい。

(マスター★3緊急前 ガレアス)

 

……フィオレーネが無事に戻ってきた。協力してくれた貴殿のおかげだ、感謝する。

……しかし、いつまでも喜びに浸っている場合ではない。ついにメル・ゼナが補足された。

メル・ゼナは王国が追い求めていた悲願の相手だ。騎士たちもみな士気高揚し、準備を進めている。

私は提督という立場ゆえ 直接おもむくことはできないが、心は共に。……頼んだぞ、猛き炎よ。

(マスター★5緊急前 ガレアス)

 

特にメル・ゼナ討伐前の台詞などは、ガレアスの主人公に対する信頼と共に、彼自身の覚悟が窺えるところでもあるんですよね。メル・ゼナは王国にとっての長年の因縁の相手であるのはもちろんのこと、ガレアス自身にとっても苦い記憶のある相手でもあります。もしガレアスが今ほどの重責を担う立場でなかったとすれば、彼はメル・ゼナの討伐にあたる騎士として自ら赴きたいという気持ちはやまやまでしょうし、彼の実力からすればその任を十分果たしうることは疑いありません。

 

しかしながら、提督という立場ともなると、メル・ゼナの出現となればその討伐のみならず、古龍の周辺地域への影響を考えて王国騎士たちの防衛の指揮監督をするだとか、調査研究の方針をバハリたちと検討するだとかで、前線の全体の統率をとるのが彼の役目。ガレアスは自らが提督として王国の異変に立ち向かうことを志すことと引き換えに、仇敵のメル・ゼナと自分自身の手で決着をつける機会はなくなるということを、前々から恐らく覚悟していたのでしょう。そしてそのメル・ゼナ討伐の悲願を託しうる相手として、彼は主人公とフィオレーネを選んだ……ということになるわけで、「心は共に」とさらっと言っているように見えて、実はこの台詞は彼の万感の思いが込められたシーンなのではないかと思うんですよね。

 

そしてその後、フィオレーネと共にメル・ゼナを見事討伐した主人公に対しては、作中でも一、二を争うほど饒舌に、フィオレーネの変化について語ってくれたりもします。

 

……フィオレーネは だいぶ丸くなったな。

己の騎士道に酔い、命を軽んじることなく 任務にあたるようになった。

カムラの里へフィオレーネを派遣したとき、フィオレーネの内にある危うさに、フゲン殿はきっと気づいたのだろう。

気づいたからこそ、貴殿を送り出してくれたのだと思う。

任務中も、貴殿がそばにいることで フィオレーネが簡単に命を投げ出すことはなかったはずだ。……感謝する。

(マスター★5 ガレアス)

 

フィオレーネの性格のことについては、以前にも何度かガレアスから話がありましたが、彼がフィオレーネについて思っていることをここまで直接的に主人公に語るのは案外珍しいこと。

 

これまでは「無茶をしがちなフィオレーネを気にかけて欲しい」とお願いされるという形でしか話題に上がらなかったといいますか、少し踏み込んで言えば「本来は王国騎士団の中での問題であり、提督である自分の役割において何とかフィオレーネが暴走しないよう監督しなければならないが、その場に居合わせた主人公にもやむを得ず協力してもらうことになった」的なスタンスで話していた感じだったのが、最終的には「腹を割って話せる仲間」として話を聞かせてくれるというのは、作中での大きな変化だと思います。

 

この件に限らず、ガレアスは特に騎士団のことに関して何かと抱え込みがちなきらいがあることをアルローも指摘しておりまして、主人公とガレアスの盟勇クエストの内容について次のようなコメントをしています。

 

おつかれさん。しかしお前さん、ガレアスとも一緒に狩猟に出かけていたんだな。
どうせアイツのことだ、なんかこっそり部下のフォローでもしてたんだろ。…相変わらずのお人よしめ。

提督って立場上、部下に頼りにくいのもあるんだろうが、ちと抱え込みすぎだな。

騎士ではない、お前さんになら頼めるってこともあるだろうから、アイツが何か依頼してきたら協力してやってくれ。

ガレアスは律儀だから、ちゃんと報酬もくれると思うぜ。

(盟勇同行クエスト★5「龍炎纏うは炎の王」クリア後)

 

「部下のフォローをしていたのではないか」というアルローの推察はさすがというべきか大当たりで、ガレアスは主人公を3回ほど(ガレアスを盟勇として自由に連れて行く条件を満たすまでに)盟勇同行クエストに誘ってくれるのですが、そのいずれもが騎士団の部下たちに関係したものとなっています。

 

(盟勇同行クエスト★5「天地に満ちる火炎と轟音」クリア後)

ここでは割愛しますが、このほかに「密林での演習前に危険なモンスターを狩っておく」という名目でバゼルギウスを、部下の騎士が撃ち漏らしたモンスターを討伐するという名目でオオナズチをそれぞれ狩りにいく機会があります。王国騎士団といってもその構成員はベテランから新人まで様々な層がいるでしょうし、彼らだけでは対応ができないケースが偶にあるというのは想像に難くないことですが、そうした場合にガレアスは率先して自分が対応に回るようなんですよね。部下たちの個々人の実力を鑑みて、無茶をさせるわけにはいかないという提督としての立場もあるのでしょうが、アルローの「相変わらずのお人よしめ」という口ぶりを見るに、恐らく元々昔からこういう性格なのだと思われます。

 

ガレアスにしても指揮官としての仕事が山積みでしょうし、その辺のフォローについては腕の立つ直属の部下たちなどにある程度仕事を割り振ってもよいのではないか、とも思いますが、「自分の都合で他の人の負担を増やしてしまうのも心苦しいし、自分がやれば済むことなら自分がやろう」という思考になるのは、他人に親切で真面目なガレアスならば無理もないこと。この手の抱えこみ癖のようなものも、彼が口下手なことの遠因かもしれません。自分の身の回りの人や物事に対して何かと丁寧な(やや丁寧すぎる)あまり、という点では、先にあげた理由と共通していると言えるかも。

 

そしてこの点に関しては、彼の部下のフィオレーネも結構気質としては似ているんですよね。任務に際して自らの身命をいとわないという彼女の騎士道しかり、あるいはいくら彼女が王国騎士の上層部という多忙な立場とはいえども、職務のために食事や睡眠を疎かにしがちであったり、病み上がりなのに普段通りの激務をこなそうとしたりしているのも、自分ひとりで多くの責任を背負おうとしてしまい、自分のために他人に手間をかけさせてしまうことをあまり良しとしないという性格によるものです。

 

むろん、王国のために自らの命を投げ打つということに関してはガレアスは渋い顔をしているのですが、フィオレーネのことを叱る以上に何かと彼女のことを案じているのは、大切な部下だからというばかりではなく、ガレアスが自分の影を見るような気持ちで彼女に共感できるから、という一面もあるのかもしれません。

 

さて、「自分の考えを人にあまり伝えようとしない」という彼の性格に関してさらに言うと、またここから話が変わりますが、メル・ゼナ討伐後、深淵の悪魔と王国の新型狩猟船の話題が挙がったときのシーンも非常に重要です。

 

……新型船についての詳細は 今はまだ詳しく話せるときではない。

いたずらに話を広げることで 皆を混乱させたくないからだ。時が来たら、かならず伝えよう。

(マスター★5 ガレアス)

……深淵の悪魔は実在する。それが、隠していたことの答えだ。

私は幼いころ故郷を襲われた際に 地底から響く声を聴いた。ゆえに、おとぎ話ではないと知っていた。

しかしその時は調査をしても 深淵の悪魔につながる痕跡が発見されなかったのだ。

……今はあの頃とは違う。私は提督という立場につき 特命騎士たちにずっと追わせていた。

こうして、狩猟船を事前に準備していたのもすべて、今このときのためだ。

……猛き炎よ。悪魔によって王国の地に穿たれた太陽。共に砕いて光を取り戻すぞ!

(マスター★6緊急前 ガレアス)

 

このシーンは主人公や他の王国騎士たちにとっても、またガレアス自身にとっても、とても重要な出来事です。というのも、ここでは今回の異変のすべての黒幕の存在が語られているのと同時に、ガレアスが50年前から心の奥底に抱えてきたものを知ることにもなるからなんですよね。ガレアスが深淵の悪魔のことを口にしなかったのは、おとぎ話の中の存在として伝えられている悪魔が実在すると言われても、当時その場に立ち会った者でもなければ到底信用できるものではないからに他なりません。

 

50年前のガレアスは深淵の悪魔の声を聴き、自らの故郷の滅亡、王国の異変、王国とメル・ゼナとの因縁の裏には必ず悪魔の存在が関わっているであろうと恐らく確信していた。ガレアスはその後に王国騎士として長年活躍し、提督の座について今回の異変に立ち向かうことになりましたが、彼はその間ずっと、深淵の悪魔の実在という事実と共に、それに対する複雑な感情――故郷を失った無念、悪魔の謎、そしていずれは自分の手でその存在に到達せんという途方もない使命とを、胸の奥底に封じてきたのではないか。ガレアスは自らのバックボーンについてそれほど多くを語りませんが、彼はそうしたものを抱えてきたのではないかと思わせるんですよね。

 

そしてガレアス自身にとっても、この一件は提督としての自分自身についての大きな気づきであったと言えるかもしれません。深淵の悪魔や狩猟船のことについて公にできないのは、彼の無口な性格という話以前にエルガドの皆を混乱させないためであり、それ自体は客観的には正当な配慮ではあるのですが、一方で彼はリーダーである自分が多くを語らないということが、時として周りの仲間に動揺や誤解を与えてしまいかねないものであることを、ここで強く意識するようになったのではないかとも思います。

 

ふだんは口数の控えめな彼が、この重要な局面においては「時が来たら、かならず伝えよう」と力強い宣言をするのは、深淵の悪魔打倒への意気込みと共に、自分自身の寡黙な性格についての内省も込めたものであるようにも感じられました。そしてこれは同時に、事情を知っている自分自身と、それを知らない主人公や他の騎士たちとの、これまで気づきあげてきた信頼関係をも示すものでもありますね。

 

いずれにしてもガレアスは、表面上こそ寡黙で何を考えているか分かりづらいという雰囲気ではあるものの、作中で丁寧に話を聞いて行くと、実際には口下手で少し不器用な言葉の裏に、部下や仲間に対する深い愛情、信頼、繊細さと、提督としての強い使命感とを秘めていることが見えてくる……そういう人物であることが窺えます。

 

とりわけフィオレーネのことに関しては、ガレアスは作中での最初の描写こそ「命を顧みない彼女を叱る」だったものの、そこから彼女が徐々に自分自身を大切にできるようになるまでの過程を、主人公にも協力をお願いしながら、本当に温かく、辛抱強く見守っていましたよね。少し補足情報として、彼がフィオレーネのことを心配しているのは、もちろん上官として部下の生命をあずかっているという責任と、優秀な副官として信頼を置いている彼女への心配と、皆にあまり無茶をしてほしくないという彼の気遣いによるものですが、それとは別の側面として、彼の幼い頃の経験が関わっているのではないかと思われます。

 

ゲーム内で取得できる「城塞高地の手記」は、この城塞がかつてメル・ゼナの襲撃を受けた当時に防衛の任にあったとある騎士の記録ですが、この話に登場する「少年」が、幼い頃のガレアスなのではないかという説があるんですね。

 

(城塞高地の手記 8~10)

もしこの少年がガレアスであったとしたら、という仮定を是とするならば、ガレアスには幼い頃の自分を身を挺して守ってくれた人物がいるということであり――ガレアスの主観で言い換えるならば、彼は「自分のことを守るために命を犠牲にした人がいる」という経験をしているということになります。

 

王国騎士団の目的は異変の調査とその解決、そしてモンスターの脅威から人々を守ることではあるものの、その中で誰かが犠牲になるというのでは、最終的に平和がもたらされたとて、それを本当の平和と感じることはできない。ガレアスは、滅びゆく故郷でのその想い出が楔のように彼の心の中に突き刺さっていて、「誰かが他の誰かのために命を犠牲にする」という悲しみを繰り返したくないという願いから、フィオレーネのことが気がかりなのではないか、という風にも思えてくるんですよね(むろん、他の誰かを守りたいという信念それ自体を否定するということではありませんが)。王国を守るという彼の騎士としての志や、堅実で他人をよく気遣う性格も、ひょっとするとこういう所にもその源流の一つがあるのかもしれません。

 

さて、次の項では、そんなガレアスの同郷の幼馴染にして無二の親友であり、寡黙な彼とおよそ正反対の性格の持ち主でもある、アルロー教官についてお話ししていきましょう。

 

2.王国騎士団教官・アルロー

 

俺は一応、前線を引いて 今は教官って立場でエルガドにいる。

無駄に年だけは食ってんだ。年相応の経験だけは積んでるぜ。その経験が役に立つかどうかは、人しだいだがな。

特訓をつけてほしかったら、いつでも言え。俺がたっぷり絞ってやるからな。はっ。

(マスター★1 アルロー)

 

アルローは王国騎士たちを育成する教官として、ガレアスと並んで王国騎士団を統率する立場。やや口の悪いところがあるものの、気さくでフランクな立ち振る舞いから、若手の騎士たちにとっても親しみやすく、話しやすい相手です。よくアルローの隣でボクシング(?)の稽古をつけてもらっているジェイをはじめ、他の騎士たちについても、特に盟勇クエストにおいて、アルロー教官との愉快なかけ合いを聞くことができます。

 

■ルーチカ

 

■フィオレーネ

 

あのフィオレーネですら、アルローとの掛け合いでは上官相手でありながらも、少しだけくだけた口調になるんですよね。彼女はガレアスに対しては、彼の直属の副官であることもありかしこまった口調になるのですが、一方でアルローに対しては(こういう例えでよいのかわかりませんが)なんというか、「仲の良い部活のOB」と話すような感じになります。これは双方に対するリスペクト度が違うという話ではなくて、むしろフィオレーネの前であえておどけてみせることで肩の力を抜かさせているというような、アルローの度量の大きさがわかる掛け合いだと思います。

 

アルロー教官の指導のスタイルについては、フィオレーネから話を聞くことができます。

 

私は騎士になるにあたって、アルロー教官に稽古をつけてもらっていた。教官はとても腕のたつ騎士だったのだ。

教官の稽古はなかなかハードだったぞ。しかし、必要なことを基礎からきっちりと理解・修得できるまで何度も教えてくれる。

そのときみっちりと稽古をつけてもらったおかげで、今ここにいるといっても過言ではない。

つまり教官の稽古は正しいということだ。貴殿も、気になるようだったら 教官に稽古を頼んでみてはどうだ?

(マスター★4 フィオレーネ)

 

アルローの稽古はハードな内容でありながらも、個々人の苦手なところや分からないところ、躓きを決して置き去りにせず、基礎が十分に身に着くまでしっかりとトレーニングに付き合うという面倒見の良さを兼ね備えており、それがフィオレーネやルーチカといった優秀な若い騎士を輩出することに繋がっています。しかも、大きな組織である王国騎士団であればその志願者もそれなりの人数がいるはずで、アルローはその一人ひとりに対して綿密な指導を行っているわけですから、彼もまたウツシ教官とは異なるタイプの素晴らしい教師。

 

フィオレーネは王国騎士になる前に彼の指導を受けたのみならず、今回の調査がひと段落した後にも、また彼に稽古をつけてもらいたいと言う場面も。王国騎士団の中でも最前線を張る彼女クラスの騎士にも、基礎の徹底というアルローの考え方がよく浸透しているのが分かりますね。

 

(マスター★6 フィオレーネ)



 

アルローは教官としての指導こそ厳しいものの、一方で自由主義的な側面もあり、尖った個性を持つ人物に対しても、基本的にはその長所を重視する性格です。アルローとの特に印象的なエピソードがあるのは王国騎士のルーチカで、彼女は「狩りの時に人格が豹変してしまうのを抑えるべきか否か」という悩みについて、アルローから次のようなことを言われています。

 

先ほどまでクエストに行っておりました。なかなか手ごたえのあるクエストでした。
狩猟に集中していると 人が変わったようだ、と言われます…。もっと落ち着かねばなりませんね。

しかしアルロー教官はそのままでいいとおっしゃいます。教官のご意見なら そのままでもいいのでしょうか…?

(マスター★3 ルーチカ)

 

まあ、そう言われたからといってそう易々と開き直れるようなものでもないのですが、最終的に彼女はガレアスにも相談して自分のスタイルを貫くことを決意したようですから、アルローの返答はルーチカに対して一つの方向を示すものであったようです。ルーチカの二面性に関しては、アルローは次のような評価もしています。

 

 

一見すると周囲の仲間を驚かせてしまいがちな「狩りの間だけ人が変わったようになる」という性格を、アルローは「狩場での興奮を引きずらずにきちんと切り替えができる」ことだと捉えて称賛しているんですよね。教官として多くの騎士たちを見てきているアルローならではの独特の視点ですが、確かにその解釈は言われてみればその通りであると言わざるを得ません。人を面と向かって褒めるのは苦手とはいえども、他人の個性に美点を見い出すという点では、アルローはあのウツシ教官にも劣らないところがあるかもしれません。

 

そしてルーチカほどではないものの、アルローはアルローで「自分のような老いぼれが……」などと言いつつ、いざ狩場に赴くと血が滾るという性分のようで、ルーチカにも「自分と同類」だと見抜かれています。とかく周りから怖がられやすいルーチカにとって、アルローは貴重な理解者ということになりますね。

 

それから王国騎士ではありませんが、バハリについてもアルローは次のように言っています。

 

バハリが帰ってきたのか。はっ、また好き勝手やってるようだな。

だが、俺はあのままでいいと思ってるぜ。なんていったって ちゃんと結果を出してるんだ。

この世界、狩猟だろうが研究だろうが 結果がすべてだ。そうだろ? だから俺は、バハリを評価してるぜ。

(マスター★3 アルロー)

 

ガレアスの方は「研究者としては頼もしいんだけど、素行のほうはやれやれ……」というリアクションなのに対して、アルローの反応はカラッとしていますね。バハリとは共に旧知の仲だからこその反応という部分もあるかもしれませんが、仲間の安全を気遣うガレアスと仲間の長所を評価するアルロー、2人の対比がよく表れている場面だと思います。

 

と、そんな感じで教官として高い資質を持ち、その器の大きさで多くの騎士たちから慕われているアルローですが、その一方で彼は、自分は「真面目でまっすぐな人間」みたいなのが似あうタイプではないと思っているフシがあるんですよね。もちろん本人は根っこの部分はいたって真剣で、熱いものを秘めている人物であることはまず間違いないのですが、普段の会話ではなんかこう絶妙に素直じゃないところがあるというか……決して露悪的というほどではないのですが、言葉の節々にちょっとした自虐が入っていたり、不真面目を気取ってみたり、他人に対してウツシ教官のようにストレートな誉め言葉をかけるのが苦手だったり、というところがあるんですよね。

 

むろん、それがネガティブな方向に傾斜するような様子はなく、むしろそういう人間味も含めて親しみやすさを感じさせる所も彼の懐深さに一役買っていたりするのだと思いますが、いずれにしてもアルローは、(同朋のガレアスが特に優等生を地で行くような人間であることもあってということなのか)自分は正道をゆく存在ではないという自己認識があるような気がします。

 

その要因の一つは、彼がまだ現役の騎士だったころの経験にあるのやもしれません。若かりし頃の自分について、アルローは次のように語っています。

 

俺も若い頃はいろいろとムチャをしたな。何度も命の危険をかえりみずに狩りをして 当時の上官にこっぴどく叱られたもんだ。

俺のような経験をしろって話じゃねぇぞ。「ムチャせず命を大事にしろ」…って、ガレアスならそう言うだろうしよ。

自分が信じて、突き進んだ道での経験が何よりおまえさんを強くするってことさ。…さ、わかったらクエストに行ってきな。

(マスター★3 アルロー)

 

若手の頃は猪突に走ることが多く、上官とも摩擦が多かったというアルロー。盟勇クエストでの彼の装備は溢れんばかりの生存スキルが搭載されていますが、それは過去のこうした経験からの学び、あるいは後悔を糧にしてということなのでしょうね。「ムチャせず命を……」というのは作中ではガレアスがフィオレーネに言っていたことですが、アルローがこの話でそれを思い出すということは、たぶんフィオレーネの一件に限らず、既に若い頃からガレアスの中ではずっとそれが一貫した思考だったのかなぁ。アルロー曰く、ガレアスは昔からお人好しな性格だった(後述)という話もありますし、周りがよく見えていて無為に危険を冒さない、手堅いところはずっと変わっていないのかも。

 

アルローは初対面の際にも、カムラの里でまっとうなハンターとして育った主人公に対して、彼が「うらやましい」という感情を抱くシーンもあります。

 

よう、おまえさんだな。カムラの里から来た 最強のハンターってのは…。

なるほど、おもしれえじゃねえか。「猛き炎」とかいうからよ、どんな暑苦しいヤツが来るかと思ってたが…。

予想に反して、穏やかな目をしたハンターがおいでなすった。おまえさん、里の皆に愛されながら強くなったんだな…。

ちょっとばかり、うらやましいぜ。俺もカムラの里でハンターやってたら、もう少しマシな人間になれてたのかねぇ…。

…まあ、そんな話はどうでもいいか。どこの国でも、長話する年寄りってのは嫌われるもんだよな?

それじゃあ、自己紹介といこう。…ようこそ、オンボロ観測拠点へ。俺が教官のアルローだ。

(エルガド到着後 アルロー)

 

上官との衝突も絶えず、無謀な狩りをして何度も危険な目に遭った経験を持つ自分と、カムラの里で大切にされて育った主人公とを比べて、ほんのささやかな自虐を呟くアルロー。若かりし頃の彼がどういう理由で捨て身の狩りに走りがちだったのかは定かではありませんが、例えば作中のフィオレーネのような感じで「王国騎士としての任務のために自分の身命をも投げ打つ」というような美学の持ち主だった……のかどうかというと、何となくアルローはそういう陶酔タイプとはまた違うような気がしますね。

 

血気盛んなあまりにムキになってしまう、自分の状態や周囲の状況が見えなくなってしまう、みたいなタイプだったのか、あるいは深読みをするならば、幼い頃に故郷を失った後、行き着いた王都で騎士としての鍛錬を積む中で、苦い経験を繰り返したくないという焦り、非力な新米である自分への苛立ち、王国の防衛の最前線を張れるだけの実力を早く身につけたい、少しでも早く成果を上げたいとがむしゃらになり過ぎた結果、前のめりの危険な狩りに走りがちになってしまった……とか、そういう感じなのではないかと思っています。

 

堅実で清廉なガレアスのように、他の騎士たちの範となるような正道を歩んできたというよりは、色々と無茶をやらかしてたくさんの苦い経験を味わい、そしてそうした自分への内省があるからこそ、自分は真人間というタイプではないという自覚が強く、自分はある種の反面教師であるという感じで自分自身を突き放している……そんな雰囲気が見て取れます。

 

まあ、彼の場合はそういう自虐交じりの人間臭さこそが真髄であり、根の部分は善良で温かみのある人ですから、まっすぐな人間じゃないところも欠点というよりもむしろ、仲間に対するフランクさや彼らしい優しさ、度量の広さ、仲間の尖った個性への寛容さなどに繋がっている部分なのではないかと思います。

 

そしてその一方で、こういう普段はフランクでちょいワル(死語)な雰囲気の人物が、重要な局面でふと根っこの真剣さを出してきたりするところも、これまた良いんですよね。

 

フィオレーネが倒れたんだってな…。さすがに動揺してるぜ。あいつは俺の大事な弟子だからな。

騎士たちをまとめる立場として、異変に気づけなかった俺とガレアスの責任だ。すまなかった。

仮に毒をくらったのがおまえさんなら、ウツシ教官が一瞬で気づいたんだろうな。…まあ今さら言ってもしょうがねえか。

(マスター★4ライゼクス前 アルロー)

 

フィオレーネが倒れたときのアルローの台詞。「大事な弟子の体調の異変に気が付けないなんざ、なにが教官なんだか、俺も本格的に焼きが回ったかな……」みたいなことをおそらくアルローは心の内でつぶやきつつ(※筆者の妄想です)、これは自分とガレアスの責任であるとして、メル・ゼナ襲撃当時にその場に居合わせていた主人公をフォローしつつ、フィオレーネの体調を憂慮しています。

 

さらに、ここではっきりと「俺とガレアス」と言っているのも重要ですね。次の項でより詳しく述べますが、フィオレーネのことについて、彼女の直属の上司であるガレアスが独りで悩まないよう、騎士団の2トップとして共にこの事態の責任を負う覚悟がもう前々からできてるんですよ、この人。

 

で、薬が見事完成し、無事にフィオレーネが復帰した後のアルローの台詞がこちら。

 

フィオレーネの薬の素材 集めてくれたんだな。ごくろうさん、助かった。

フィオレーネは、エルガドにとってなくてはならない存在だからな。もちろん、おまえさんも同じだけどよ。

エルガドのみんなが感謝してるぜ。…まぁ、俺からも、ありがとうよ。よくぞ大事な弟子を助けてくれた。

(マスター★4エスピナス後 アルロー)

 

アルローが珍しく、照れながらもストレートに「ありがとう」と言うシーンです。勇気を振り絞って(?)この言葉を口にするに至ったのは、自分の弟子を助けてくれた主人公に対してきちんと筋を通す、という意味合いもあるのでしょうが、普段はどこかすねたところのある彼が、たまにこうして一瞬だけ素直というか、誠実というか、たまにはそういうのもいいかと思うところが良いんですよね(逆にこっちが少し恥ずかしくなるくらいですが)。まあ本人としては、たまにじゃなくていつも自然にそうであれるような人生を送れていたらだいぶ違っただろうなぁ、とは思っていそうですが……そうじゃないところが彼の人格的な魅力です。

 

3.双璧の絆

 

さて、これまで見たように、ガレアスとアルローは無二の親友でありながら、性格的にはちょうど正反対の関係になっておりまして、幼馴染とはいえ意気投合し、長年の付き合いが続いているのは一見すると不思議ではあります。しかしながら、彼らの友情はむしろ正反対だからこそ互いの持っていないものを補い合うというような形になっておりまして、作中で最も印象的なものとしては、アルローは口足らずなガレアスが何を考えているのかを、主人公に対して代弁するような場面がいくつかあるんですよね。

 

おまえさんも、ついに王域三公とご対面か。いいじゃねえか、存分に暴れてこい。

謙遜する必要はねぇよ。ガレアスだってエルガドの提督なんだ。ちゃんと依頼する相手は選んでる。

ま、つまりはそういうことだ。みなまで言わせるんじゃねぇ。ほら、さっさと行ってこい。

(マスター★3緊急前 アルロー)


王域三公との初対面を目の前に、不安な面持ちの主人公に対する激励。同時期のガレアスの台詞は「貴殿の腕前ならばなんの問題もないだろう。私がそう判断し、任務を依頼したのだ。……気負わずに行ってこい。」で、ガレアス基準でいえば最大限の賛辞ではあるものの、彼はその気持ちを多くの言葉を使って伝えるタイプではありません。この時期はまだ猛き炎が本格的に活躍する前の時期ということもありますし、主人公的にもガレアスの評価は喜ぶ気持ちは有れど、未だ確固たる自信に繋がっていないようなところがあったのでしょう。


そこで、アルローがこうしてフォローを入れてくれるわけですね。ガレアスがいかに主人公に信頼を置いているかということを、第三者を通じた評価という形で主人公に伝えてくれるのです。まあ、そのアルローもアルローでなんかこう素直に褒め切らないのは、彼も照れくさいからなのでしょうね。正反対のわりに変なところで似ているかもしれない。

 

続いて、ガレアスが主人公を何度かクエストに誘ったことについてのコメント。こちらは先にも紹介したものですが、間に数千字ほど挟まっていてさかのぼるのが面倒なので再び全文を引用しておきましょう。

 

おつかれさん。しかしお前さん、ガレアスとも一緒に狩猟に出かけていたんだな。

どうせアイツのことだ、なんかこっそり部下のフォローでもしてたんだろ。…相変わらずのお人よしめ。

提督って立場上、部下に頼りにくいのもあるんだろうが、ちと抱え込みすぎだな。

騎士ではない、お前さんになら頼めるってこともあるだろうから、アイツが何か依頼してきたら協力してやってくれ。

ガレアスは律儀だから、ちゃんと報酬もくれると思うぜ。

(盟勇同行クエスト★5「龍炎纏うは炎の王」クリア後)


そういえば、この台詞は最初の一文だけ見るとなんかやきもちでも焼かれているのかと一瞬思ったのですが……まあアルローに限ってそんなことはね。でそれはよいとして、アルローはガレアスが主人公に依頼した盟勇同行クエストが、いずれも騎士団の部下のフォローであるということをバッチリ見抜いてみせた上で、「騎士ではない主人公にこそ頼めることもあるから」と、お人好し故に自分の仕事を増やしてしまいがちなガレアスを助けてやってほしいとお願いしてきます。

 

ガレアス本人は自分の負担が大きくても、自分から人に弱みを見せようとはしないと思いますから、何かと抱え込みがちなガレアスの性格について(本人にはもちろん内緒で)主人公に共有し、理解者を作って、ただでさえ提督としての仕事に追われるガレアスをさりげな~くフォローしようという狙いがある様子。お人好しもほどほどにせんかい、と思っているフシはありつつも、実際アルローはガレアスのそういう所をとても気に入っていると思うんですよね。

 

そして、ガレアス絡みの話でアルローのリアクションが一番大きかったのは、作中でメル・ゼナを補足した時の台詞。

 

おい! メル・ゼナを見かけたって本当か! …ついに姿を現しやがったな…!

最初にも説明したと思うが、エルガドが追いかけている相手がメル・ゼナだ。もちろん俺もずっと探していた。

ガレアスもきっと気が気じゃねぇだろうな。…おっと、今のは独り言だ。忘れてくれ。わかったな。

(マスター★4 アルロー)

 

共に故郷の滅びを経験したガレアスとアルローの、メル・ゼナに対する気が気でない思いが窺えるシーンですが、ここで気になるのは最後の一文。ガレアスの心境を察する独り言ののち、聞かなかったことにしてほしいと念押ししています。城塞高地の廃墟が自分たちの故郷だった、という暗い話はまだ伏せておきたいという意図であるといえばそれまでですが、彼が特にガレアスについての言及を撤回しているのは、「あまり自分の心の内を覗かれたくない」というガレアスの性向を汲んでのものだと思うんですよね。過去に滅ぼされた自分たちの故郷に対して、ガレアスは望郷と、無念と、そしてメル・ゼナや深淵の悪魔の謎を突きとめ、王国を守らんとする大志と……本当に複雑な想いを抱えている。それは彼の行動の中核をなすものでありながら、同時に最も繊細で、言葉にして他人に打ち明けるのが難しいことでもある。

 

アルローがガレアスのことについて話すときは、ただガレアスの考えていることを何でも話すというよりは、彼が踏み込まれたくないと思っているラインを絶妙に見極めていて、そこが2人の長年の絆を感じさせるところだなぁと思ったりします。


それから、直接ガレアスのことに言及する台詞ではないのですが、何となく「これはガレアスのことを言っているのではないか?」と気になったのがこちら。

 

おまえさん、やるじゃねぇか。ビシュテンゴ亜種の狩猟、見事だったとエルガド中でウワサになってるぜ。

なーに照れてんだよ。周りのウワサなんて、気にすんじゃねぇ。それがいいものでも悪いものでも、な。

おまえさんは何を言われても堂々としてろ。ふさわしい噂が勝手に付いてくるんだよ。

(マスター★2 アルロー)


エルガドでの初めての実績を立てた主人公に対して、自信を持たせようとする台詞です。「人の噂は気にせず堂々としていろ」という言葉は、この文脈に関して言えば、エルガド着任後日も浅く、実績を立てたとはいえ未だ緊張の見える主人公の背中を押してくれる彼の優しさなのですが、それとは別の話として、アルローはこの言葉を、ガレアスにもかけたことがあるのではないかと筆者は勝手ながら想像しています。

 

というのは、ガレアスは昔から実直で優しい性格で、親友であるアルローはそのことを分かっていたとしても、いかんせんガレアスの口数が少なく、自分のことを説明するのがあまり上手でないゆえに、ガレアスのことをあまりよく知らない周囲の人間に対して、たとえ本人に全くその気がなかったとしても、「ガレアスは人当たりが悪い」という本人の性格とは正反対の印象であったり、何かしらの誤解であったりを与えてしまうことが少なからずあったのではないかと思うんですよね。


それに加えてガレアス自身もけっこう繊細な人物ですから、自分が周りからどう思われているのかというのを気にすることがあったのではないかと。そこでアルローが、ガレアスには恥じるべきものは何もないのだから、人の噂などに頭を悩ませることなく真っ直ぐ自分の道を行けばいい……とガレアスを励ます光景が、筆者としては割と容易に想像できたりします。またあるいは、そういうかつてのガレアスの姿を、恐らく気質が似ているであろう主人公に重ねている、という説もあるかも? まあ、いずれもあくまで想像の範囲内ではありますが……。


で、アルローがこのようにして、ごく自然な形でガレアスをフォローする立ち位置になっているのは、もちろん彼らが長年の親友だからということもありますが、共に騎士団を率いるにあたって、そのトップとして相応しいのは自分よりも間違いなくガレアスの方だと確信があるからなのだと思います。

 

ガレアスのやつ、珍しく怒鳴りやがって。あいつもまだ熱くなることがあったんだな。

元々口数が少ねぇやつだからな。自分の考えとかを伝えるのが下手なんだよ。…言っとくが、あいつの実力は本物だぜ。

提督に足る能力は、しっかりある。この俺が、この目でしっかり見てきたんだ。…ま、昔話はここら辺にしとくか。

(マスター★2緊急前 アルロー)

 

客観的に見れば騎士団の双璧と言っても過言ではなく、今もなお共に騎士としての高い実力と熱い魂を内に秘める2人ですが、アルロー個人の主観としては、若い頃の現役の騎士時代、己の身命を顧みずに何度も無茶をするなど軽率の誹りを免れないところがあり、模範的な騎士であったとは言えないような自分よりも、昔から変わらず根っからの堅実さや勤勉さ、人の良さを備えるガレアスにしか、騎士団の頂点たる提督の座は務まらないだろうとアルローは考えているのでしょう。


そこで彼は自分のなすべきこととして、職務上では若い騎士たちを育成する前線の教官として、またガレアスの無二の友としては、口数の少ないガレアスの考えを汲み取って代弁したり、若手が話しかけやすい年長者としての役割をつとめたり、本人も知らない形でガレアスを手助けしてみたり……といったポジションを―――おそらく半分は無意識的に――占めるようになったのではないかと筆者は推察しています。

 

一方のガレアスにとっても、騎士としての想いを共有することができ、また自分の一番の理解者として共に騎士団を率いてくれるアルローの存在は非常に大きいと思います。彼も知らず知らずのうちに、先述したようなアルローのさりげないフォローに救われている場面は多々あるように思いますし、またガレアスにとって、アルローは数少ない対等の相手でもあるんですよね。

 

ガレアスの立場において、エルガドで明確に目上の存在と言えるのはチッチェ姫くらいであり、騎士団の仲間は基本的に全員が「部下」で自分が「上司」、エルガドでは提督として常にリーダーシップを発揮しなければなりません。自分と目線の高さが同じ人物が少ないという点において、提督という立場は思ったよりも孤独で、そんな中で自分と同じ目線でものを考えてくれる、あるいは自分の立場を忘れて息抜きができる相手が、ガレアスにとってはアルローになるわけです。

 

特にそれがよくわかるのが、ガレアス・アルローと3人で狩猟に行く盟勇同行クエストです。

 

 

主人公とガレアスと自分の3人でクエストに行かないか、というアルローの提案に対して、ガレアスが指定したモンスターはまさかのテオ。一応、これについても王域内で早急に討伐したいモンスターの中から自分たちで直接行くのが良さそうなものを、ということらしいのですが……それはそれとして、ガレアスがウッキウキでこのクエストを選択したのがもう目に浮かぶようです。

 

……ゲーム内で周回をやりすぎているとどうも感覚が麻痺してしまいますが、テオ・テスカトルというのはモンハン世界でも屈指の強さを持つ古龍であり、サイゼリヤ行くくらいの感覚で気軽にポンポン狩りに行けるようなモンスターじゃないんですよね。それをここでわざわざ指定してくるというのは、実力に対する信頼の証であると同時に、「テオくらい余裕だよね?」という親友に対する一種の挑戦状であり、ガレアスがここだけは提督としての立場を忘れて、互いに切磋琢磨した友と勝負をするという少年の心に戻れる時間なのだと思います。


そのテオのクエスト中でも、アルローと仲良く煽り合う(?)珍しいガレアスを見ることができます。

 

■クエスト開始直後

 

■クエストクリア後


仲良しかよ。まあ仲良しでいいんですけど。この短い会話の中にも、ここまで話してきたような2人の関係性がぐっと凝縮されていますね。なんかもうそのまま2人でクエスト行ってきたら? という感じなんですが、アルロー的にも「久しぶりにガレアスと狩りに行きたいけどちょっと誘うのがハズいな……」ということで、せっかくだから主人公も誘って3人でという形にした……みたいな気持ちだったりするんでしょうか。いずれにしても、互いに重責を担う立場となった身でも、共に狩りに行けば「あの頃に戻れる」友がいるというのは、双方にとって得難い価値を持つものだと思います。

 

4.総括

 

ということで、本稿のまとめといたしましょう。それでひとまず、ガレアスの項で書くタイミングを見失ったのでここで書いておきたい話題が一点あるので、ここで触れておきつつ総括という流れで参ります。

 

ガレアスは同じリーダー格の存在としてフゲンとも対比されるキャラクターではありますが、ガレアスが率いているエルガドと、フゲンが里長を務めるカムラとでは、集団の性質が大きく違いますよね。

 

カムラの里は基本的にはカムラ出身の者が多く、他の国から里にやってきた者も温かく迎え入れるという雰囲気で、里全体が「家族」という間柄で結ばれています。この「カムラの民は家族」の「家族」とは血縁という意味ではなく、1人ひとりがお互いを助け合い、共に災禍に立ち向かうという団結を示すものです。こうした連帯はフゲンを中心とした強固な組織力もさることながら、カムラの里が大陸の都市部からは遠く、比較的人の往来が少ない山あいの辺境地にあるという土地柄も大きく関わっているでしょう。

 

……エルガドに集った人々は、王国に属する者ばかりではない。

それぞれが、自分のために選んだ場所が たまたまエルガドだっただけにすぎぬ。

……しかし集ったからにはこれも縁。提督として、皆を大切に思っている。

(エルガド到着後 ガレアス)

 

これに対してエルガドは、半壊した砦を再建して王域内の観測拠点兼港町として機能している場所であり、他の地域との交流も盛んで人の往来も多く、異なる複数の文化の混じり合う街。そしてエルガドに集う人々も、王国騎士やハンター、学者や研究者、技術者、商人、船乗りなど様々な面々がおり、ガレアスも話しているように、必ずしもエルガドにいる全員が、王国に所属しその下で働いているというわけではありません。

 

……ここエルガドは、もとは調査拠点ではなく砦だった。それが、メル・ゼナの襲来により半壊した。
大穴が横にあることもあり、完全な復旧よりも 調査拠点として再利用することになった。

皆の働きで、半壊したことが嘘のように 今では立派な調査拠点として機能している。……ありがたいことだ。

(マスター★3 ガレアス)

 

形式上の話でいえば、「王域生物の異変の調査」という名目でエルガドで働いているのは王国騎士団と調査隊、加工屋の人たちと、他には主人公(一応、おそらく正式に王国所属というわけではないのですが)とオボロ(チッチェ姫の護衛という密命を受けている)くらいであり、他の人たちはあくまでも自分の仕事場が偶然エルガドであったという感じなんですよね。

 

そんなエルガドの人々が、作中で異変の脅威が段々と大きくなるなかで強固な団結をし得たのは、主人公やフィオレーネの活躍もさることながら、エルガドを率いる提督ガレアスの、皆を気遣う静かな包容力に支えられている部分は本当に大きいハズ。以前からどこかしらで言っていると思いますが、ライズ-サンブレイクのシリーズを通しての一つの大きなテーマは「災禍に立ち向かう人々の連帯」であると筆者は考えていて、その中でガレアスはエルガドの「連帯」の中心となり得る資質を備えた、個性的で素晴らしいリーダーであると思います。

 

そしてこれまた筆者の私見ですが、その大テーマである「連帯」の中でも、ライズが「家族」を前面に出していたのに対してサンブレイクでは「仲間」が中心となっていて、ゲームシステム面でも「盟勇」という要素が追加されて一つの形となったほか、ストーリーや世間話などの作中の人物描写においては、特に「二人一組の仲間、コンビ、バディ」みたいな関係を押してきているんですよね。王域三公などの狩猟で何度もタッグを組んだ「主人公とフィオレーネ」をはじめ、他にもエルガドにいる複数名のキャラクターたちにおいて、お互い相手に色々な想いを抱きながらも支え合うという間柄が描かれています。

 

ガレアスもその例に漏れず、かつて失われた故郷への想いを共有し、提督の重責を担う自分の一番の理解者として共に騎士団を支えてくれる親友のアルローという存在がいます。性格的には真逆の彼らが意気投合し、王国騎士として――そして今は提督と教官として今日まで活躍してきたのも、正反対だからこそ互いに自分が持ち得ないものをリスペクトし、不得意な部分を補い合ってきているからに他なりません。彼らはそうした自分たちの関係性について、もはや敢えて直接口にするまでもないというほどの円熟した付き合いでありますが、彼らのそれぞれの会話の端々から、その絆を窺い知ることができます。

 

個人がどれだけ優秀でもその一人が何でも出来るわけではなく、手を取り合ってこそ大きな目標に向かうことができる――2人の絆は特に、それを教えてくれるものです。そしてひいて彼らの厚い友情が、エルガドの大きな一本の柱になっているような、そんな感じがするんですよね……。

 

それから、現在の王国の調査拠点としてのエルガドの組織は、異変の終息に伴っていずれ解体されることとなります。王国を襲う禍いの真の原因に迫り、50年前に故郷を失った無念に決着をつけるというガレアス自身の目的も達成されたわけですが、彼はその後も引き続き、王国の提督を続けていくとのこと。

 

……これでエルガドで掲げていた目標は すべて達成したことになる。

遠くカムラの里よりいたり よくぞ王国を救ってくれた。礼を言うぞ、○○よ。

……今後、キュリアの影響がなくなり 調査拠点であるエルガドが解体されても 私はきっと、提督であり続けるだろう。

私を慕ってくれている騎士たちと共に 我らの故郷、王国を守るために。

(マスター★6 ガレアス)

 

さまざまなルーツや目標を持った個々人が集まって一つのチームとなっていたエルガドが、その目的を終えたらふたたび各々が元の道に戻ったり、新たな出発を果たしていく……。名残惜しさはあれど、ここで得られた成長や繋がりは、きっとこれからの王国の糧になってゆくはず。「王国の平和を守り続ける」というガレアス達の不断の努力には、必ずや多くの頼もしい仲間が共についてきてくれることでしょう。

 

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ということで、本稿はこの辺りで〆とさせて頂きたいと思います。本稿では紹介できなかったのですが、王国騎士の中で特にガレアスを慕っている騎士に、新人のジェイという人物がおります。ウツシ教官と一緒に盟勇で連れて行くととにかくうるさいことで有名な彼です。ジェイの台詞にもガレアスについて言及したものがたくさんありまして、本稿で引用してもよかったのですが、あまりこの記事で台詞を載せすぎてしまうと今後執筆するジェイの記事で書くことがその分減ってしまう、というか重複部分が出てしまうため、本稿ではいったん見送りといたしました。またジェイが主役の記事を書く際には彼の台詞を色々と見ていきたいと思いますので、ガレアやジェイのファンの方はぜひお待ちいただきたく…という次第でございます。

 

それから余談ですが、本記事でガレアスとアルローを例えるのに使った「双璧」という言葉は、筆者の好きな銀河英雄伝説という作品の、ミッターマイヤーとロイエンタールの関係をなんとなくイメージして使っています。年齢も性格もまあ色々と違うところはあるのですが、互いに実力を認め合う親友でありながら、片方は真人間でもう片方はちょっと曲がっているという感じで性格は対照的というのが、なんとなく重なる部分があったんですよね。まあ、モンハンも何にも関係ない筆者の趣味の話なので、銀英伝の話題はこの辺にしておきましょう……書き始めると止まらなくなっちゃいますから。

 

ということで、ここまでお読みいただきありがとうございました。また別の記事でお会いしましょう!