イオリくん一家とイヌカイさん

※注意事項※

・本記事は「モンスターハンターライズ」全編のネタバレを含みますのでご注意ください。
・本記事でのキャラクターや人間関係、世界観の考察に関しては、作中で判明する設定を基にした筆者の推測を含む箇所が多くありますことをご了承ください。
・本記事は、2021年12月17日発売の「モンスターハンターライズ 公式設定資料集 百竜災禍秘録」発売前に執筆されたものです。
 したがって今後公開される公式設定は、本記事での考察内容と明確に異なる(=本記事での考察内容が誤りである)可能性がありますことをご了承ください。

・本記事の内容は、記事を改訂すべき点が発見された際には、予告なく加筆修正を致します。
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オトモ雇用窓口のイオリくんと加工屋のハモンさんは、マガイマガドをめぐる里ストーリーで共に中心人物となるキャラクターで、孫と祖父という関係にあたります。ストーリーでもあったように、2人は本心では互いのことを大切にしていながらも、ゲーム開始時点ではイオリのオトモ雇用窓口の仕事のことをめぐって少し複雑な関係。今回はそんな2人がどのように距離を縮めていったのかの物語や、イオリの両親の友人イヌカイの存在についても迫っていきたいと思います。

 

ーーーもくじーーー

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①里ストーリーに沿って、2人の心境の変化を見ていく

ストーリー開始直後、ハンター認定を受けてヒノエと一緒にあいさつ回りをする時が、2人の仲についての話を聞くことができる最初のタイミング。

 

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(ゲームスタート時)

ゲーム開始時点のハモンは、孫のイオリの仕事をあまり良く思っていない素振りを見せます。里ストーリーを進めていくと、本来はハモンは非常に孫想いな人物であることが追々分かってくるのですが、この時はイオリの仕事ぶりにあまり好意的ではない様子が印象に残ります。なぜそんな様子なのかというと……それは以下の通り。

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最近、イオリには会ったか?

優しいのはいいが、おさなごのようにオトモたちとたわむれている姿を見ると… いささか、将来が心配になる。

老人がとやかく言うことでないことは百も承知だ。しかし……うぅむ……。

(里☆2 ハモン)

 

まあこうやってイオリのことを聞いてくる辺り、この人すごく孫のこと気にかけているんだなぁ、というのが伝わってきます。孫のことは応援したいし困っているときは力になりたいけれど、一方でどうしても彼のオトモの仕事を認めてあげられない気持ちもあり…… なかなかフクザツな心境です。

 

「家族」を大きなテーマとするモンハンライズですが、単純にみんな仲良し~という感じではなく、ちょっとうまくいっていない関係、というのもきちんと描いてくれるのがこのゲームの奥行きがあるところ。イオリとハモンの関係も、その代表的な例の一つです。

 

モンハンライズは明るい雰囲気で作られている作品なので、バチバチに仲が悪い関係、みたいなのはさすがに登場しませんが、ハモンの中になかなかイオリの仕事を認めることができない所があり、ストーリー開始時点では2人の仲はややこじれ気味……という感じになっています。

 

里ストーリーのメインはもちろんマガイマガドの討伐ですが、それと並行して、イオリの成長やハモンの心境の変化、2人が徐々に歩み寄っていく様子を見守っていくというところも大きな物語だったりします。以下、しばらくは考察というよりは里ストーリーのおさらい的な感じになりますが、その流れを見ていくことにしましょう。

 

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血気盛んなガルクやアイルーが、大社跡の幽霊騒ぎを解決するって出て行っちゃって…。

あそこは今、アケノシルムが暴れていてとても危ないんだ。ボク、もう心配で心配で…。

〇〇さん、お願い! ガルクとアイルーはボクが捜索するから、アケノシルムを狩猟して!

(里☆3緊急前 イオリ)

 

大社跡の幽霊騒動(実際はマガイマガド)で、幽霊を退治しようと一部のオトモたちが独断で出かけてしまうという里ストーリーのイベント。ハンターさんとイオリくんで手分けをして、オトモの救出に向かうことになります。

 

実はこのイベントの前後で、ハモンの方の台詞も変化するんですよね。一般に、NPCの会話が変化するのは各ランクの緊急クエストをクリアした後であり、「緊急クエストが出てからクエストをクリアするまでの間」にも会話パターンが増えるケースは多くはありません。しかもここでは、イオリに話を聞く前と後で2パターンの会話があり、なかなかの作り込みを感じるポイント。

 

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孫が、おぬしに相談があるらしい。

…悪いが、話を聞きに行ってやってくれるか。いつも通り、オトモ広場にいるはずだ。

 

↓↓(イオリに話を聞いて緊急クエストが出現した後)

 

孫が、すまんな。アケノシルムの狩猟、よろしく頼む。

ガルクとアイルーはイオリが助けに行く。里の衆も同行するゆえ、心配はいらん。

おぬしは、何も気にせず自分の狩りをしてくるがいい。朗報を待っている。

(里☆3緊急前 ハモン)

 

淡々としていますが、どことなくイオリに対する優しさが滲み出ているセリフです。第一印象こそ「仕事一徹の加工屋」という感じのするハモンですが、彼の保護者らしい一面も垣間見えるこのイベントは、ちょっとしたギャップ萌え(?)ポイントかもしれませんね。……というか実際、他の里の人からハモンの話を聞いていくと、ハモンはもはやギャップしかないみたいなキャラだったりします。

 

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(里☆3 ヒノエ)

人前ではあまり素直に自分の気持ちを言葉にしないハモンですが、アケノシルムの件が終わった後にはこの笑顔。

 

また追々紹介していきますが、彼は確かに一見するとやや固いところや厳しい一面があるものの、他の人からハモンの話を聞けば聞くほど、彼が孫のことをどれだけ大事に思っているか、そして周囲への優しさに富んでいる人なのかということが分かってくるんですね。

 

この時点で、イオリについてのハモン本人の話だけを聞いていると、ハモンはイオリが自分の孫だからこそ、イオリのことをまだ子どもとして見てしまい、一人前として認めてやれない部分もあるような様子に見えます。イオリの優しくて柔和な性格は彼の持ち味ですが、それが逆に頼りなく見えてしまう、という側面もあるのかな? と感じたりも。

 

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加工屋のハモンとは、腐れ縁でな。ギルドマネージャーのゴコク殿と3人で、ハンターとして狩り場を駆け回ったものだ。

対して、ハモンの孫のイオリは、祖父とは正反対だ。動物を愛する、優しさのカタマリのような少年に育った。

だからこそ、オトモ雇用窓口は天職だろう。まあ、ハモンはあの性格ゆえ、「軟弱だ」と思っているようだがな…。

(里☆2 フゲン)

 

ハモンの性格をよく知るフゲンからも、このような話を聞くことができます。

が、その一方で、ハモンがイオリのことを認められないのは「軟弱だから」というのは、実は建前の理由であるという話を聞くことが出来るんですよ。ハモンがどうしてイオリを良く思っていないのか……その本当の理由はヒノエがこっそり主人公に教えてくれます。

 

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加工屋のハモンさんと、オトモ雇用窓口のイオリくん…。ちょっと複雑な関係なんです。

ハモンさんが、オトモ雇用窓口の仕事に対して「軟弱だ」って反対している… というのは、じつは表向きの話でして…

…本当はハモンさん、ガルクがちょっとニガテなんです。それでイオリくんがどう接したらいいか悩んでいるようで。

本当はお互いのこと、とても大事に思い合ってるんですよ。でもふたりとも不器用ですから…。難しいですね。

(里☆3 ヒノエ)

 

ハモンは昔、野良のガルクに噛まれてしまったことがあるらしく(後述)、その時のトラウマを引きずっているためにイオリの仕事をあまり受け入れられない、とのこと。

 

イオリを良く思っていないという表面上の態度とは裏腹に、ふとした素振りや言葉の端々からイオリを大切にしている気持ちが伝わってくる様子を見るに、おそらくハモンは本当は、孫の背中を自分が素直に押すことができたらいい、と思っているのでしょう。

 

しかし、過去のトラウマを自分の心の中でどうにも整理することができず、でもそれを理由にイオリの仕事を否定してしまう自分のことも良いとは思えず、だからといってそう易々と自分のトラウマを払拭できるわけでもないし……そういう心の中の葛藤が、結果としてイオリの優しい性格のことを「軟弱」と懸念して彼の仕事を認められないという態度を取る、という形になってしまった……。ハモンの心境はそんな感じだったのではないか、と私は見ています。

 

そしてハモンも、孫のことを認めてやれない気持ちを一人で抱えておくのは少しつらかったようで、里の一部の人には密かに打ち明けていたようですね。

 

ヒノエのイオリくん評をもう一つ。

 

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オトモ雇用窓口のイオリくんが、○○さんに頼みたいことがあるそうで…。

人一倍責任感の強いイオリくんが、誰かに頼み事だなんて珍しいことですよ?

○○さんが信頼されている証ですね。ささ、早く行ってあげてくださいな。

(里☆3緊急前 ヒノエ)

 

イオリの働きぶりは第三者であるヒノエの目線から見れば、とても責任感を持って取り組んでいるとのことでして。客観的には今でもすでに立派であると言って差し支えないと思うのですが、イオリが他の誰よりも自分のことを認めてほしいと思っているであろう当のハモンが頑なな態度を取っていますから、イオリも自分はどうしたらいいか…と迷うところでしょう。

 

ハモンの旧友であるフゲンの方は、あくまでも「ハモンはイオリのことを軟弱だと思っている」と主人公に言っていましたが……実はフゲンも、ハモンはガルクが苦手であるという本意を知っているんです(後述)。しかしフゲンはその事情を知った上で、おそらくハモン本人から「本当のことは口外しないでほしい」と言われているために、義理を通して主人公には建前の方の理由でハモンの態度を説明しているんですね。

 

まあ、おそらくヒノエの方にも「他の人には口外しないで欲しい」とハモンは伝えているような気はするのですが……。ヒノエも決して口が軽い人ではありませんが、主人公のアケノシルム狩猟のクエストが、イオリの仕事や彼とハモンとの関係に関わるものだからということで、主人公には例外的に伝えておくべきだろうとヒノエ自身が判断したのでしょう。

 

ヒノエの言う通り、本当はお互いのことを大切にしている2人なのですが、しばらくは依然として関係はこじれたまま。里☆3百竜夜行の出発前には、イオリからこんな話を聞くことができます。

 

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○○さん、いよいよ百竜夜行だね。

ボクも、里守として砦を防衛するよ。この日のために、修練場でみんなと修行してきたんだから。

…でも、おじいちゃんはボクが里守になったこと、あまり快く思ってないみたい…。

だけど、ボクはもう子どもじゃない。里の為にがんばれるんだって証明して、認めてもらいたいんだ。

(里☆3百竜前 イオリ)

 

ハモンは本当は、イオリが里守として戦ってケガをしてしまったりしたらどうしよう、と心配なのでしょうね。でも、その気持ちを素直に伝えられなくて、あくまで「自分はイオリを一人前と認めていない」という態度を通そうと取り繕ってしまう。

 

そんな中で挑むこととなる里☆3百竜夜行、ハモンの心配が不運にも現実のものになってしまうことに。ここでは先の幽霊騒動の原因がついに判明することとなります。幽霊だと思われていたものの正体はマガイマガドで、百竜夜行の終わり際に主人公、イオリ、ヨモギの3人の前に登場。

 

とっさの撤退の判断で3人は難を逃れますが、これによってマガイマガドは、ハモンにとっては「50年前に里を壊滅寸前に陥れた仇敵」というだけではなく、「孫を襲おうとした敵」という点でも因縁が出来たことに。マガイマガド狩猟の命を言い渡されたハンターさんに、ハモンはこう伝えます。

 

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○○よ。フゲンから、任務としてマガイマガドの狩猟が申し渡されたと聞いた。

なれば、おぬしに託す。狩れるならワシが狩りたいが、年寄りが出しゃばる場面ではないゆえな。

あやつめ…。50年前は里を壊滅寸前に追い込み、こたびは、孫に…イオリに牙を剝きおった。

できればこの手で狩猟したいが、老いたこの身でヤツを狩るのは至難の業。口惜しい限りだ。

だが…元ハンターとして、孫を襲われた祖父として、カムラの鍛冶職人として…。かならずや一矢、報いてみせるぞ。

(里☆3 百竜夜行後)

 

百竜夜行にて50年ぶりの邂逅となるマガイマガドとの、今度は加工屋としての戦いに意気込むハモンとは対照的に、イオリの方はというと、里長フゲンの「里を守るとは、狩るのみにあらず」という言葉に頭を悩ませることに。

 

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うーん…。

「"里を守る"とは、狩るのみにあらず」…だとしたら、ボクたちは何をすれば「里を守った」と言えるんだろう…?

モンスターを狩らないと、里は危ない状態が続くのに…。ちょっと、難しいなぁ…。

(里☆3百竜後 イオリ)

 

マガイマガドを狩らなければ里を守ることはできないのに、武器を取る以外に何をすべきだというのか…。イオリの悩みは「里の役に立ちたい」という想いが強いからこその悩みと言えるでしょう。里を守るために自分が出来ることは何なのか、答えを見つけられずにいる孫にハモンは自らの行動を通してヒントを与えます。

 

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ビシュテンゴの狩猟、みごと。おかげで、からくりは完成した。すでに砦への設置も済んでおる。

これでマガイマガドを百竜夜行から引き離せる。引き離してしまえば、百竜夜行を喰って力を増すこともあるまい。

 

(からくりの説明なので中略)

 

「"里を守る"とは、狩るのみにあらず」

フゲンの言葉に対する加工屋ハモンの答えは、このからくりでもって示した。

…さて、からくり造りに協力してくれた礼はせねばな。これを受け取ってくれ。

(里☆4 ハモン)

 

里長の言葉について考えるイオリやヨモギに直接答えを教えることはせず、あくまでも自分の行動で示すことによって、が自分で答えに辿り着くことを待つ……。直接言葉にして伝えないのは、「自分で答えに辿り着かなければ意味がない問いだから」ですね。

 

ハモンという人は、つくづく矛盾の塊のような人です。ガルクへの苦手意識から、建前上はイオリの軟弱さを懸念しているという理由で、イオリの仕事を良く思っていないという態度をふだんは取りながら、本心ではイオリがこの答えに辿り着くことを―——おそらくは「オトモ雇用窓口の仕事によって里を守る」という答えに辿り着くことを期待して、自らヒントまで出しているのですから。

 

ハモンのこのメッセージはしっかりとイオリに届いていたようで、ハモンのからくりの完成を見届けた彼からは、次のような会話を聞くことができます。

 

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おじいちゃん、マガイマガドを倒すためにからくりを造ったんだ。

加工屋として、鍛冶職人として… マガイマガドから里を守るために…。

…そうか。おじいちゃんは、自分の行動で示してくれたんだね。

ボク、わかってきたような気がするよ。「"里を守る"とは、狩るのみにあらず」……里長のあの言葉の、答えが。

(里☆4 イオリ)

 

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マガイマガドは、おじいちゃんが造ったからくりで分断されているみたいだよ。

○○さん、おじいちゃんのためにも、どうかマガイマガドを狩猟して…!

そうしたら… 今、頭の中にある答えに、自信が持てるんだ。

里長が言っていた……「狩る以外で、里を守るためにボクたちにできること」。その答えを、里長に伝えられる…!

(里☆5緊急前 イオリ)

 

イオリくん、やっぱり賢い子ですね。言葉ではなく行動で示すハモンからのメッセージをきちんと汲み取って、自信の持てる答えに辿り着くことができました。マガイマガド討伐後のエンディングで、イオリとヨモギが里長に自らの答えを伝えるシーン。王道ながら感動してしまいましたよ。

 

また別の記事で触れる予定ですが、ハンターの狩猟を支えるための仕事もまた「里を守る」ことの一部であって、ハンターもそうした皆のサポートがあってこそ狩りが出来るんですよね。ハンターを助ける仕事、モンスターの脅威を前にしても里の人たちのいつも通りの生活を維持するための仕事、モンスターを直接狩るのではなく弱体化させるための仕事なんかも、「里を守る」ことにつながるわけです。

 

ハンターの「狩猟」という戦い方も、モンスターの脅威に対処するための唯一の手段ではなくて、あくまでも数ある手段の一つでしかないんですよね。モンスターハンターを長く遊んでいると、ついつい「狩猟」にばかり目が向いてしまいますが。

 

②里マガイマガド討伐後の2人

話を戻しまして、マガイマガド討伐後、自分なりの「里を守る」ための仕事に自信が湧いて、一層真剣にオトモ雇用窓口の仕事に取り組むようになったイオリ。

 

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今までも、オトモ雇用窓口のお仕事はとても楽しかったんだけど、さらに自信を持ってできるようになったよ。

これも、○○さんがマガイマガドを狩猟してくれたおかげだね。本当にありがとう。

ボクは○○さんをオトモ雇用窓口として支えることで、里を守るよ。…これからも、ずっと!

(里☆5 イオリ)

 

一段と引き締まった孫の姿勢を見たハモンも、彼のオトモ雇用窓口の仕事を少しずつ認めていくように心境が変化していきます。……で、このちょっとずつ歩み寄っていくハモンとイオリがまた絶妙~にぎこちなくて、とても可愛らしいというか、微笑ましい様子なんです。

 

仇敵マガイマガドの脅威が拭い去り、ハモンもひとまず気が楽になったタイミングで、ハモンはようやく「自分はガルクが苦手だ」ということを主人公にカミングアウトしてくれます。

 

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イオリのオトモ雇用窓口の仕事… ワシが今ひとつ受け入れられぬのは、理由がある。

…○○、おぬしを一人前と認めているからする話だが… ワシは…ガルクがニガテでな…。

幼い頃、野良のガルクに噛まれて以来、どうしても慣れん。

ハンター時代も、オトモはアイルーのみ。フゲンやゴコク殿がガルクに乗って移動するときも、走って追いかけたものだ。

…これは、里ではフゲンやゴコク殿しか知らぬ話よ。くれぐれも他言無用で頼むぞ。

(里☆5 ハモン)

 

幼少期のトラウマというものは、たとえそれがトラウマを持たない者からすれば「大したことないだろう」と思うようなものだったとしても、本人の中では大人になってもずっと尾を引いてしまうような性質のものですから、ハモンの気持ちもよく分かります。

 

しかもハモンとしては、一度彼の子どもが、つまりイオリの親もまたオトモガルク育成の仕事を選んでいるという背景があり、自分の子孫が2代続いてガルクと関わる仕事を選んでいることになるわけですから、特にイオリに対しては「自分の子のみならず孫も、よりによって自分の苦手なガルクの絡む仕事を選ぶのか……。」と、輪をかけてネガティブに考えてしまう部分もあったことでしょう(イオリの両親については後述)。

 

まあ、自分の子がオトモガルク育成の道を選んだときに、ハモンも少しはガルクへの見方が変わっていてもいいのではないか、というツッコミも出来なくはないのですが、トラウマはトラウマですし、仮に自分の子らがガルクの道に進むのを認めたときにガルクへのネガティブな気持ちがいったんは収まっていたとしても、孫のイオリがオトモにべったりの姿を見てから、その気持ちが再燃してしまっていた、という可能性も大いにありえるでしょう。

 

しかしマガイマガドの一件におけるイオリの成長と、彼のオトモ雇用窓口の仕事への真剣な姿勢を見て、ハモンはこれまで孫にとってしまった態度や、ガルクが苦手という自分の気持ちへの内省を語っていくようになるんですね。

 

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近頃、イオリが、どことなく男らしくなったように感じる。

マガイマガドの件から、いろいろと学んだのだろう。オトモ雇用窓口での仕事ぶりが堂々としたものになった。

イオリを軟弱などと言ったこと、取り消さねばならんな。ワシの目が曇っておっただけだったわ。

これも○○のおかげだ。里が平穏になれば、イオリも交えて3人で飯でも食おうではないか。3人でな。

……別に、イオリと2人きりだと少し気まずいからおぬしを誘っているとか…そういうわけではないぞ。

(里☆6 ハモン)

 

ハモンも孫のこととなるとなかなか不器用な人ではありますが、このように自らの考え方をいつまでも固持することなく柔軟に変化させ、昔のトラウマのために自分のレンズが歪んでしまい、結果として孫のイオリを「軟弱」と悪く言う形になってしまったことを撤回しよう、と態度を潔く改めることができる……そういうところを私は本当に尊敬しています。ゲーム内のキャラだからとか、そういうの関係なしに。

 

そして主人公は、百竜夜行の脅威が去ったらイオリと3人でご飯はどうか、と誘われるのですが、ここで「3人でな」とわざわざ念押ししてくるところに、孫と距離を詰めたいけれど少し恥ずかしい気持ちもある、なかなか素直になれない可愛らしいおじいちゃんの一面を垣間見ることができます。大事なことなので2回言いましたっていうやつですね。

 

そして、同時期のイオリからも、祖父のハモンにオトモの仕事のことを肯定的に捉えてもらえるようになったことを、とても嬉しそうにしている旨の会話を聴くことができます。

 

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最近、おじいちゃんが、オトモ雇用窓口のお仕事について聞いてくれるようになったんだ。

…本当に、ごくたま~に…だけど。

でも、前はボクのお仕事を良く思っていない感じだったから、それだけでも、とても嬉しいんだ。

これも○○さんのおかげだね。里が平和になったら、おじいちゃんを呼んでここで3人でご飯とか…どうかな…?

……別に、おじいちゃんと2人きりだとちょっと照れちゃうからとか、それで誘ってるわけじゃないからね…?

(里☆6 イオリ)

 

いや仲良しかよ。最後の2行、「3人で食事をしよう」の話の部分、さっきのハモンと全く同じ気持ちで、全く同じことを言っています。仕事のことを「ごくたま~に」聞いてくれるようになったという所も、ちょっとした気恥ずかしさが残っているようでなかなかハモンらしい感じですね。

 

このぎこちない距離感を見るに、ハモンはまだはっきりと「イオリにはオトモ雇用窓口の道を歩んでほしい」と言葉にはできてはいないでしょう。それでも少しずつ着実に、かつての「孫の仕事に反対するハモン」は変わりつつある。イオリがこのマガイマガドの一件において、「里の為に自分ができること」への答えを自ら導き出し、今まで以上に真剣に仕事に取り組む姿をハモンに見せられたことが、ハモンの気持ちを動かしました。

 

ガルクが苦手だという気持ちよりも、マガイマガドの一件を通じて成長した孫の姿を誇らしく思い、認めたいという想いがまさったからこそ―—―イオリがオトモの仕事を心から好きな気持ち、その仕事にかける熱意を、自らのガルクへのトラウマから認められなかった自分の方をこそ改めなければならないと意を決したからこそ、ハモンはイオリの仕事に肯定的になれるよう、変化の道を歩み出すことができた。

 

もちろん、この一件を以てハモンの中のガルクへの苦手意識がすぐに払拭されるというわけでもないのですが、マガイマガド討伐後の里エンディングでは、オトモ広場でイオリとハモンが2人で話しているところにガルクもいる、という1枚絵のシーンがあり、少しでも孫に対して歩み寄れるようにと、彼も自分の苦手意識を変えようとしているようなフシが伺えます。

 

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(↑寝転がるガルクを撫でるハモン)

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(↑「ワン!」と吠えられて少しビックリ。でも楽しそう)

どんな人間にも苦手なものがあるというのは当然で仕方のないことですが、それを遠ざけ続けて否定するのではなく、何らかの仕方でうまく付き合えるように自分をちょっとでも変えていく、という姿勢は本当に素晴らしいと思います。

 

先ほども少し述べましたが、じっさいのところ、ハモンはこれまで自分が「ガルクが苦手だから」という理由でイオリの仕事を否定してきてしまったことについて、悔いる気持ちがあったのでしょう。あるいは、ハモンが本当の理由を「他言無用」と念押ししていたことから察するに、自分の個人的な事情で、しかも幼い頃にガルクに噛まれたという、いわば「周りの人間から見れば大したことでもない、些細な」ことで孫の仕事を否定してしまう自分を、恥ずかしい、情けないと思う部分もあったのかもしれません。

 

ハモンは自分のトラウマさえなければ、イオリの仕事を否定するようなことにはならなかったでしょう。ハモンの本心の中に「イオリの背中を押してやりたい」という気持ちがあったということは、彼が「里を守るとは、狩るのみにあらず」というフゲンの言葉の意味を考えるヒントをイオリに伝えようとしていたこと―—―つまりイオリを「オトモ雇用窓口の仕事も里を守ることである」という答えに辿り着かせようとしていたこと、まさにその事実がよく証明していることです。

 

イオリのことは大切に思っている、でもその孫が選ぼうとしているオトモの仕事は、ガルクに対する過去のトラウマからなかなか受け入れられない。ガルクがどうしても受け入れられないために、孫の仕事を良く思えずにいる自分の気持ちの方をこそ変えるべきだということはわかっているし、自身もそうしたいのはやまやまだけれども、やっぱり苦手なものは苦手で……。

 

そうして堂々巡りになる思考を消化できなかった結果、「軟弱なイオリがきちんと仕事ができるかどうか心配だから、オトモ雇用窓口の道には反対」という建前の理由によって、イオリに対して壁を作ってしまうという結果になった。そんなハモンが今や、ガルクの苦手意識を少しずつ取り除こうと気持ちを新たにしています。

 

これまで、祖父のことは本当は大好きだけれども、オトモが好きな自分に対して祖父はガルクが苦手なので、どう接したらいいかわからない……と戸惑っていたイオリにとっては、この状況はこの上なく喜ばしいものでしょう。ムービーを見るに、ハモンがガルクに慣れやすいように、ガルクを仰向けにしてあげている様子で、彼の祖父への気遣いが感じられる1コマでもあります。

 

ちなみに、マガイマガド討伐後にハモンと話すと、他にはこんな台詞を聞くことができます。

 

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おぬしがマガイマガドを狩ったおかげで、50年の間、長く抱えていた肩の荷が降りた。

○○よ。良きハンターに成長したな。フゲンも、ゴコク殿も、同じ思いだろう。

だが、里の状況はまだまだ予断を許さぬ。これからもよろしく頼むぞ。

あと…イオリはおぬしのことを尊敬している。よければ、時々でいいから気にかけてやってくれると…その…助かる。

(里☆5 ハモン)

 

イオリのことを話すときだけ、明らかにちょっと雰囲気が違うハモン。イオリとの距離は確実に縮まったとはいえ、孫にどういう距離感で近づいたらいいかわからない感が良く出ています。

 

イオリの成長にとって、主人公の存在が非常に大きなものであるからこそのお願いということではありますが、それ以上に、自分の孫への接し方がまだまだ不器用で、応援してやりたくても中々気恥ずかしい……という自覚があるからこそ、こうして主人公にもイオリを気にかけてほしいと頼むわけです。それに、イオリと主人公の距離感がちょっと羨ましい…という気持ちも、ちょっとはあるかもしれませんね。

 

しかしながら何といいますか、「その…助かる。」という言い方、どう見てもツンデレ属性が入っていますよね。ハモンさんは心から尊敬できる人であると同時に、なんだか可愛らしいお人だなぁと感じることもしばしば。私は常々、モンハンライズの真のヒロインはハモンさんだったのではないかと思っています(まあそもそも、明確に"ヒロイン"のポジションにあたるキャラがいるわけでもないのですが)。

 

③イオリの両親とイヌカイ

さて、ここからまた別の話題です。これまで述べてきたとおり、イオリとハモンは孫と祖父という間柄ですが、イオリの両親は登場するの? というのは気になるところだと思います。先に答えを述べておくと、イオリの両親は、現時点ではカムラの里の外で仕事をしていて、会ってお話をすることはできないんですよね。

 

イオリの両親も、イオリと同じくオトモに関わる仕事をしており、2人は他の色々な地域でのオトモガルクの普及に努めています。

 

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お父さんとお母さんがカムラの里を留守にしてだいぶ経つね…。

オトモガルクが他の地域では浸透していないから、普及のために旅をしているんだ。

ときどき寂しいと思うこともあるけど、おじいちゃんや、イヌカイさんや、オトモのみんながいるから平気だよ。

(集会所☆4 イオリ)

 

イオリの両親がカムラの里を発ってからどのくらい時間が経ったのかは、イオリからは「だいぶ」という大まかな情報しか聴くことができません。何年もいないというわけではなさそうですが、それにしても結構長いあいだ両親とは離れているようですね。

 

推測に過ぎませんが、親としての務めを果たしてから―—つまり、イオリが(カムラの里基準で)大人と呼べる年齢になり、きちんと自立して仕事ができるまでに成長してからカムラの里を離れたと考えると、ここ1年~長くても3年のこと、くらいでしょうか。イオリがオトモ雇用窓口の職に就くまでは、おそらくイオリの両親が同様の職を務めていたと考えると、概ねそれくらいの時間が経っていると考えられます。

 

イオリの両親の仕事について詳しいのは、先ほどの会話にも出ていましたが、たたら場前エリアでオトモガルクについて教えてくれるガルクマスターのイヌカイです。イヌカイは2人の親友であり、共にオトモガルクの育成に取り組む同志でもあります。

 

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ハモンさんが鍛冶職人としてカムラの里を支えていく姿を見て、イオリの両親は、自分の道を定めた。
彼らは、里に古くから受け継がれるガルクを使った狩猟をさらに洗練させて里を守ろうと考えたんだ。

その考えに、代々ガルクを育成している私が同調し、手を取り合ってオトモガルクの教育に力を注いだ…というわけさ。

(後略)

(里☆4 イヌカイ)

 

イオリがオトモの仕事を天職としているのも、おそらくは彼の両親の影響が大きいと言えるでしょう。幼いころからガルクたちと触れ合う機会も自然と多くなり、そして両親が仕事する姿を見て育ったことで、彼自身もオトモに関わる仕事を自分の道とした、という感じでしょうか。

 

イオリの両親について、ハモンから何か話を聞くことは現状ありませんが、かつて2人がオトモの育成の道を選んだときも、先述の通りハモンはかなり複雑な心境であったと思います。

 

冒頭のクリップにもありましたが、建前なのかどうかは分からないものの、ハモンは自分の家が加工屋であるということを少し意識しているような素振りがあるんですよね。加工屋の家に生まれた子が(両親の内どちらがハモンの血縁かは分かりませんが)、ハモン自身の苦手なガルクの育成の道を志したとあらば、その背を押してやりたいという気持ちの一方で、自分の仕事を継いでくれたりしないだろうか、加工屋を継がないにしてもなぜよりにもよって選んだ仕事が自分が苦手なガルクなのだろうか、などと葛藤があったに違いありません。

 

それでも、加工屋として里を守ろうとするハモンの姿を見て、イオリの両親は「ガルクの育成を通じて里を守りたい」という強い意思を示したのですから、その意思は尊重されるべきであるという筋を通すのが最善だとハモンは考えた…。イオリの両親とハモンとの間には、そんな感じの過去があったのではないかと推察されます。

 

そして、先ほどの会話には更にこういう続きがあります。

 

(前略)

今回もハモンさんは、鍛冶職人として「からくり」を完成させて…語らずして「役割」の重要性を教えてくれた。

イオリとヨモギも、ハモンさんの姿を見て、かならず里長が伝えようとしていることに気づける…そう信じているよ。

(里☆4 イヌカイ)

 

イヌカイの「今回」という言い方を見るに、イオリの両親がオトモガルクの育成の道を志した当時のハモンも、今回のイオリの時の同じように、「カムラの里が大切にしている "役割" という考え方を学び取ってほしい」というメッセージを、加工屋として里を支える自らの姿を通じて学び取らせようとしていたのかもしれません。

 

イオリの両親はハモンが加工屋の仕事に取り組む姿を見て、ガルクの育成こそが自分たちの「役割」なのだと道を見定めた。自分の子どもがまさか自分の苦手なガルクの育成を天職に選ぶとは……みたいなことを恐らく当時のハモンは思ったでしょうが、彼らがそこに自分たちにしかできない役割を見い出し、彼らなりの方法で里を守るために責任を持って取り組むと決めた、ということがハモンにとっては最も重要で、そこにハモンが個人的にガルクを苦手としているという私情があったとしても、それ以上に彼らの選んだオトモガルクの育成という道に納得を感じたわけです。

 

イオリはそういう意味では、このマガイマガドの件を通して、おそらく彼の両親が通ったであろう道を自分も通ったということになるのかもしれませんね。ガルクの苦手な祖父にどうしたら自分の仕事を認めてもらえるかと悩んでいたイオリでしたが、オトモ雇用窓口の仕事を通じて里を守るという決意を固め、今まで以上に固い覚悟で取り組んでいく姿勢を見せられたことが、ハモンの心を大きく動かすきっかけとなった。

 

一方でハモンの方も、マガイマガドの一件を経て、これまで以上に固い意思でオトモの仕事に励まんとする孫の姿を目の当たりにしたからこそ、彼の心の中のガルクへの苦手意識に対して、孫の背中を押してやりたい、孫の仕事を素直に認めてやれず、結果として孫を悩ませてしまった自分自身の方を変えたいという気持ちに迷いがなくなったのです。

 

ハモンはその後、これまで関係がこじれ気味で距離を置いてきた孫に少しでも近づきたい、さしあたって今までずっと引きずってきたガルクへの苦手意識を少しでも減らしたい、というアクションにまで至っていますから、ハモンの心境に与えた変化の大きさという点で言えば、イオリは彼の両親を超えているといっても過言ではないかもしれませんね。

 

さて。そんな感じで、今でこそ少しずつ打ち解け合うことができたイオリとハモンですが、マガイマガドの件以前はイオリは自分の仕事を祖父にあまり良く思ってもらえず、自分の仕事のいわば師匠にあたる両親は里を留守にしており、イオリは内心ではなかなかに孤独だったに違いありません。そんなイオリにとって、両親の親友であり同志であるイヌカイの存在は、非常に大きいものだったと言えるでしょう。

 

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ガルクマスターのイヌカイさんは、ボクのお父さんとお母さんの友だちで、昔から3人でガルクを教育していたんだ。

お父さんとお母さんが里を留守にしている間、いつもボクのことを心配してくれて、すごくいい人だよ。

あと、ガルクマスターというだけあって、とてもガルクに詳しいんだ。イヌカイさんと話すと、勉強になることがいっぱいだよ。

(集会所☆3 イオリ)

 

イオリにとっては、イヌカイはオトモの仕事においても頼もしい先輩のような存在であり、両親が不在で何かと大変な今の自分に親身になってくれる人でもあります。じっさい、里ストーリーでのイヌカイの台詞にはイオリについての話が多く、たとえば大社跡の幽霊騒動の件については、次のような会話を聴くことができます。

 

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イオリの両親は私の親友であり同志だ。その息子が苦悩する姿は、私にとっても苦しいものだった。

しかし、○○のおかげで問題は解決した。本当にありがとう。

キミは、目を見張るような速さで頼れるハンターへと成長していくね。本当に心強いよ。

(里☆3 イヌカイ)

 

幽霊騒動を解決しようと一部のオトモたちが勝手に里を飛び出していってしまった件、イヌカイも相当心配していたようです。この台詞、息子が「苦悩する」という言い方がやや特徴的ですね。イオリはオトモたちのことを心配しつつ、アケノシルムの討伐を託したハンターさんにはつとめて冷静にお話ししてくれましたが、アケノシルムもじゅうぶん危険なモンスターである以上、イオリも気が気ではなかったのでしょう。

 

しかし更に踏み込んでみますと、これは個々人の言葉の捉え方にもよりますが、「オトモを心配していた」「慌てていた」とかではなく「苦悩していた」という言葉をわざわざイヌカイが選ぶあたり、イオリの心境はもっと複雑だったのでしょう。

 

オトモ窓口担当の自分がきちんと制止できていれば、オトモたちを危険な目に遭わせることもなかったのではないか…という自責の念もあったのかもしれません。もし万が一のことがあれば…と、最悪の可能性を考えると、優しい性格の彼は特に苦しい気持ちになるでしょう。

 

また、そうして自分は未熟だという観念に駆られてしまうと、「ハモンに自分の仕事をなかなか認めてもらえない」という悩みにも拍車がかかります。イヌカイのこの言葉選びには、当時のイオリはそのような心境だったのではないかと推測させるものがありますね。

 

マガイマガド討伐後、精神的に大きな成長を見せたイオリや、そんな彼を見て心境に変化のあったハモンを見て、イヌカイはこんなコメントをしています。

 

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マガイマガドの一件を経て、イオリは成長した。ハモンさんも、どこか雰囲気が変わったように思う。

イオリの両親は元気にしているかな。今も、どこかでオトモガルクを広めるためにがんばっていることだろうけど…

そろそろ一度戻ってきて、今のイオリとハモンさんを見て欲しいね。きっと、驚くに違いない。

(里☆6 イヌカイ)

 

これを見るに、イヌカイはイオリくん一家の事情について、かなり詳しく知っていることがわかります。これはもちろん、親友であるイオリの両親からイオリとハモンのことについて色々話を聞いていたから、ということに他ならないでしょうが、イヌカイの立場をより深く理解するためには、「イオリの両親が里を離れる」ということは、「微妙な関係のイオリとハモンを里に残していく」ということでもあることに着目する必要があるでしょう。

 

イヌカイが「今の2人を見たら驚く」と言っていることから察するに、ハモンのガルクへの苦手意識と、お互いに色々と不器用な性格のために2人の仲がさほど上手くいってないということは、イオリの両親もおそらくはよく分かっていたことでしょう。

 

しかし、イオリとハモンの関係を気にしていつまでも里を離れられないでいるようでは、イオリの両親はオトモガルクの普及という目標に永遠に着手することができません。それに、イオリとハモンが距離を縮めるのは、自分たちが間に入って仲を取り持つことによってではなく、あくまで本人たち自身が共に成長することによってでなければ意味がない、ということもあるでしょう。

 

諸々の事情がある中、断腸の思いでイオリの両親は旅に出たのだと思いますが……イオリを里に置いて旅に出るということは、かなり覚悟の必要な決断だったに違いありません。イオリを仕事面でも精神的にも孤独にしてしまうことになりかねませんし、ハモンにとってもなかなか難しい状況を残してしまうことになります。

 

だからこそ、イオリの両親は里を発つ決心をした際に、親友でありオトモガルク育成の同志でもあるイヌカイに、イオリの仕事上の良き相談相手になってほしい、そしてイオリとハモンの良き理解者として2人の関係を見守ってほしいと、里に残していく家族のことを彼に託したのではないか……私にはそのように思われるのです。

 

今回の件、これまで話してきたように、両親が不在で祖父には仕事を良く思ってもらえないイオリの大変さ、心細さは痛切なものです。そして一方でハモンも、孫に対する自分の態度について悩み、苦心を重ねています。

 

自分の子は仕事のために里を離れ、孫の専門分野もこれまたオトモガルクとくれば、イオリに対してかなりモヤモヤした感情を抱いていたことは想像に難くありません。それでもなお、孫のことは本当に大切に思っていて、孫の背中を押してやりたい気持ちがある。イオリが「役割とは何か」という難問にぶつかったときは、自らの加工屋としての仕事を以て彼にヒントを与え、孫の成長のために自分の使命を尽くしました。

 

その甲斐あってイオリの仕事への姿勢も引き締まり、そんな孫の姿を見たハモンも彼の仕事を少しずつ認められるようになり…と、二人とも一皮むけたことで、互いを大切に思っていることが今までより素直に表現できるようになった。

 

変化というのは人間にとってなくてはならないものですが、一方でそれは相応のエネルギーを使うものでもあり、時に痛みを伴うものですらある。だからこそ、2人の心境の変化、関係の変化を誠実に見届けてくれる、イヌカイのようなポジションの人間が当事者たちの周囲にいてくれることが非常に大切なんですね。

 

総括に入りましょう。里ストーリーにおけるイオリとハモンの一連の経緯は、モンハンライズの「家族」というテーマを深めるにおいて、非常に重要な意味があると言えるでしょう。

 

「家族」は狭義では親子、兄弟姉妹、婚約者といった特定の間柄を指す言葉、広義では「家族のように仲が良い」などと、親密な人間関係を言うときの比喩としても使われる言葉です。特に前者の意味において、家族は「安心できる相手」「自分が帰るところ」といったイメージがありますが、一方で「良くも悪くも互いの人生に影響してしまう」という側面もあり、家族というものをつねに肯定的に語ることはできません。

 

カムラの里の団結を指して「カムラの里は、みな家族」と言われるときの「家族」には、家族は「仲が良い」というイメージが前提として織り込まれているように私たちには感じられますが、一方で必ずしもすべての家族がうまくいっているわけではないということを、私たちはイオリとハモンの関係から教えられもします。「家族」という言葉をさまざまな角度からプレイヤーに考えさせる観点が、2人のストーリーの中に埋め込まれていたわけですね。

 

そうした多義的・多面的な「家族」の概念を踏まえた上で、「カムラの里は、みな家族」とは(私たちプレイヤーが生きる現代社会のありようも踏まえた上で)どういう意味を持つものなのか、今後どこかの記事で月並みながら私の考えを書きたいと思っていますが、果たしてサンブレイク発売までに終わるんでしょうか。

 

正直、来春発売とかだったら絶対に全キャラ分の考察記事終わらないと思っていたので、夏発売でよかった…と安堵しています。が、この油断がいずれ落とし穴になるのだ!

 

そんなわけで、本記事はこの辺で〆とさせて頂きます。週をまたいでゆっくり書いてしまったため、なんか同じことを何回も言ってしまう悪癖が本記事でかなり拍車がかかっていると思いますが、そういうド凡人の長文に耐えてここまでお読み頂けましたこと、本当に幸いでございます。

 

それでは、また別の記事でお会いしましょう!