アイルーたちに学ぶ商売の知恵
※注意事項※
・本記事は「モンスターハンターライズ」全編のネタバレを含みますのでご注意ください。
・本記事でのキャラクターや人間関係、世界観の考察に関しては、作中で判明する設定を基にした筆者の推測を含む箇所が多くありますことをご了承ください。
・本記事は、2021年12月17日発売の「モンスターハンターライズ 公式設定資料集 百竜災禍秘録」発売前に執筆されたものです。
したがって今後公開される公式設定は、本記事での考察内容と明確に異なる(=本記事での考察内容が誤りである)可能性がありますことをご了承ください。
・本記事の内容は、記事を改訂すべき点が発見された際には、予告なく加筆修正を致します。
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カムラの里のたたら場前エリアや集会所には、ゲーム中でハンターが利用できるもの・できないものを問わず、たくさんのお店が営まれています。
お店の半数ほどはアイルーのキャラクターが経営しているというのも印象的な所でして(カムラの里におけるアイルーの存在を特徴づけるところでもあるのですが、本記事ではひとまず置いておきましょう)、今回の記事では里でお店を経営するアイルーたちの中でも、とくに商人気質強めなセリフが個性的で面白い魚屋のカジカ、雑貨屋のマイドの2人をご紹介していきたいと思います。
ーーーもくじーーー
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①魚屋のカジカ
まずは魚屋のカジカから。
ヨッ! ○○! 捕れたてピチピチの魚はどうだニャ!
オイラがついさっき捕ってきたばっかり! 新鮮さはピカイチニャ!
1匹、いや5匹くらい買っていくといいニャ!
(里☆1 カジカ)
カジカの台詞で非常に特徴的なのは、何かにつけてハンターさんに魚を買わせようとするところです。何かにつけて、と言っても特に悪意があるわけではなく、ハンターさんと旧知の仲だからこそのやりとりというか、半ば彼の商売の決まり文句のようなものなのですが、とにかく魚を買ってほしいという押しがすごいんですね。以下、カジカが魚を勧めてくる台詞を立て続けにどうぞ。
ヨモギちゃんはとっても目がいいニャ。遠くの遠~くからでもお客さんを見つけるニャよ。
これはきっと、脂ののった魚のおかげに違いないのニャ!
ほらほら! ○○も騙されたと思って買っていくニャ! 悪いようにはしないニャ!
(里☆1 カジカ)
ヒノエさんのお肌はツルツルだニャ。まるで内側から光ってるかのようにピカピカしてるニャ!
これはきっと、青魚の力に違いないのニャ! 肝なんかも最高ニャよ!
ほらほら! ○○も騙されたと思って買っていくニャ! 悪いようにはしないニャ!
(里☆2 カジカ)
イオリは、骨や歯がとっても丈夫なのニャ。すっごく高い木から落ちた時も、ニャんと、擦り傷だけですんだのニャ。
これはきっと、小魚のおかげだニャ! なんたって魚を丸ごと食べられるからニャ!
ほらほら! ○○も騙されたと思って買っていくニャ! 悪いようにはしないニャ!
(里☆3 カジカ)
ゴコクさんは、いつも元気だニャ。風邪ひとつひいたことがないってみんな言ってるニャ!
これはきっと、キラッキラの青魚が力を発揮している違いないのニャ!
ほらほら! ○○も騙されたと思って買っていくニャ! 悪いようにはしないニャ!
(里☆4 カジカ)
※原文ママ 原文は2行目の「に」が脱字している
カゲロウさんは、とっても頭がいいのニャ。オイラがどんなにたくさん買い物しても すぐに値段を出してくれるニャ!
これはきっと、青魚の力だニャ。あるいはトロ…いやいや、両方かニャ! そうに違いないニャ!
ほらほら! ○○も騙されたと思って買っていくニャ! 悪いようにはしないニャ!
(里☆5 カジカ)
里長のフゲンさんは、いつも元気だニャ。まさに健康そのもの! 強い体っていうのはああいう体のことを言うのニャね!
これはきっと、魚の力に違いないのニャ。とにかく魚を食べてるおかげだニャ!
ほらほら! ○○も騙されたと思って買っていくニャ! 悪いようにはしないニャ!
(里☆6 カジカ)
お、○○も集会所に行くのニャ?
集会所に行ったら、きっと酒を飲むニャね?
酒といえば魚だニャ! ほらほら、魚買ってけニャ!
(集会所☆1 カジカ)
……カジカの猛烈なアタックの数々、いかがでしたでしょうか。
カジカの魚屋で売られているお魚はどれも照りが良く非常に美味しそうで、カムラの里地域の自然の恵みを受けて栄養も豊富ですから、ぜひ購入したい一品揃いです。しかし、どんなに質の良い商品でもきちんと売れなければ価値がありません。とれたてピチピチの生魚は足が速く、腐る前に買って食べてもらうのが肝要ですから、売る方としてもなかなか必死の戦い……ということで、自然と押しも強くなるのでしょうか。
②商品を買ってもらう話術と、カジカのストイックな仕事ぶり
じつは、上記のようなカジカの押しはただのごり押しではなくきちんと一定の理論に基づいたものなんです。勘のいい方はすでにお察しのことかもしれませんが、カジカが魚を売ろうとするときの台詞には、一定のパターンがあることにお気づきでしょうか。すなわち、上記数パターンのカジカの台詞はいずれも3段階構成で、1行目、2行目で顧客を納得させるような質問や言葉を投げかけ、3行目で「魚買うニャ!」と売り込みをかけるという構成になっています。
これは「イエスセット話法」と呼ばれている、心理効果を利用したセールスのテクニックなのです。イエスセット話法とは、交渉に入る前に、顧客との間に小さな同意を積み重ねておくことによって、本命のお願いや交渉を聞き入れてもらいやすくなるという話法のこと。
例えば、カジカがヨモギの話題を出したときの台詞を、この理論に沿って分析すると次のようになります。
カジカ「ヨモギってすごく目が良いよね」(同意形成その1)
ハンターさん「そうだね」
カジカ「目が良いのは魚の脂(DHA)のおかげだね」(同意形成その2)
ハンターさん「そうだね」
カジカ「よし! 魚を食べるといいことだらけ! 魚買うニャ!」(本命の交渉)
続いて例その2。集会所の話をしたときの会話も、以下のような構成になっています。
カジカ「集会所行くんだって?」(同意形成1)
ハンターさん「うん」
カジカ「集会所行くならもちろんお酒飲むでしょ?」(同意形成2)
ハンターさん「うん」
カジカ「よし! お酒のつまみに合う魚も買うニャ!」(本命の交渉)
――という感じで、カジカはいきなり魚を売り込むのではなく、先にハンターさんの共感を得られるような質問を投げて「そうだね」と同意を得る、というのを積み重ねてから、本命の魚を売る交渉に入っています。
これによって、「目が良くなったら狩りが有利になるだろうな~」「お酒のお供に魚があったら最高だな~」など、魚を買ったほうがいい理由、魚を買う必然性を、買い手であるハンターさんに意識させることができます。それに加えて、買い手の共感を得られる質問を何度も積み重ねることで、買い手目線では「この人は自分のことをよくわかってくれるなあ」と感じられ、売り手への信頼感が高まることにも繋がります。
また、事前に何度も「イエス」の返事をしていることで、最後に本命の交渉をされたときにもついつい「イエス」と言いたくなる、ここまでの流れ的に「ノー」とは言いづらくなる、という効果もあります(このような「自分自身の態度をコロコロ変えたくない」「前に自分がした行動と矛盾する行動を取りたくない」という人間の傾向は一貫性の法則と呼ばれているそうです)。これらの心理的効果をうまく利用して商品を売り込んだり交渉を取り付けたりするのが「イエスセット話法」なんですね。
ただし、質問による誘導が露骨すぎると、買い手目線で「ああ、この人は自分に商品を買わせたいんだな」という意図が見え透いてしまい、むしろ逆効果になってしまいます。カジカもそれはよく熟知しているようで、質問の形を取らずに自然な会話の流れでハンターさんから「そうだね」を引き出している場合も多く、彼の洗練された話術が伺えるところです。
なお、本来はカジカくらいの会話の長さではやや短く、もう少し顧客とキャッチボールを重ねたほうが効果的のようです。ただ、今回のはあくまでゲーム内のテキストであり、ゲーム中にプレイヤーに読ませるNPCの会話テロップをあまり長くしすぎるわけにはいきませんので、とにかくカジカがそういう話術を使っている、ということがプレイヤーに伝わればよいということで、このくらいの丁度良い短さになっていると思われます。
さて、魚屋のカジカは実はイエスセット話法という高度なテクニックをマスターした一流ビジネスパーソンだったということが明らかになりましたが、彼の仕事へのストイックさは販売技術の習得だけにとどまりません。彼は魚を捕まえるときのスタイルにもこだわりがあるようです。
なんで服を着てないのかって? 服ニャんて! そんなまだるっこしいモン着てられないニャ!
魚影が見えたらすぐ! 一刻も早く! 間髪入れずに! 可及的速やかに飛び込まなきゃ間に合わないニャ!
服なんて気にしてる時間はムダムダのムダニャ!
いいニャ! 瞬発力が大事ニャよ!
(里☆4 カジカ)
里で暮らしているアイルーの中でも彼は唯一服を着ていないキャラですが、これは魚を見つけた時にすぐ川に飛び込めるようにという目的のようです。彼にとっては何も着ないのが戦闘服ということなんでしょうね。人間とアイルーとでは服の考え方も違いますし、服を着ないことについては特に恥ずかしいということもなく問題ないようですが、寒いのではないのかというのは少し心配です。でも、魚影を確実に捉えられるようにという準備の万全さは素晴らしいですね。
そしてそれだけに留まらず、彼は何を思ったかハンターさんにも服を着ないよう勧めてきます。
○○も服なんて着ないほうがいいニャよ。すぐ川に飛び込めないニャ。
服を着たままで泳ぐと危ないのニャよ? 命は大事にした方がいいニャ。
(里☆6 カジカ)
うーん、私はさすがに服を着ないと恥ずかしい……というか、モンスター狩りに行くのに何も身に着けていないようでは裸お団子火事場敵の攻撃で一瞬でやられてしまいますから、着ないというわけにもいきません。せっかくお勧めして貰っているところ悪いのですが、人間はいちおう服を着た方がいいという事になっていますから、服は着させてもらうことにしましょう。とはいえ、こういう種族の差が良い意味で(?)あまり意識されていない台詞はカムラの里らしくて良いですね。
なお、「服を着ないのか?」というのは周りの人たちからもたびたび突っ込まれているらしく、それについてカジカは次のようにコメントしています。
よく「服を着ないのか?」って聞かれるのニャ。
服を着た方がいいっていう人もいるニャけど…。
みんなもっと、ありのままのオイラを見てほしいニャ。
服なんて着ても着なくてもオイラは男前ニャ。
(集会所☆5 カジカ)
…ということらしいです。周りの皆も、服を着なくて寒くないのだろうかと体調を心配して言っているのだろうと思いますが、「すぐに川に飛び込める格好=服を着ない」こそが彼にとっての仕事着である以上、彼にも譲れない所があるのでしょう。服を着た方がオシャレだろうという見方もありますが、魚を捕って売るという仕事に心血を注いでいるのがカジカですから、その仕事にとって一番ベストな状態でいることが、むしろ彼の光る個性を引き出しているのかもしれません。
カジカがこんなにも様々なこだわりをもって魚屋の仕事に注力しているのは、彼自身が非常に魚が好きだから、商売の仕事にやりがいや楽しみを感じているから、というのも勿論あるでしょうが、魚を食べてみんなに丈夫で健康な身体を作ってほしい! という想いがあってのもの。
ヨッ! ○○! ハンター就任おめでとうニャ!
さあさあ! ウチの魚を食べるニャ! ハンターに必要な栄養がたっぷりニャ!
足りないなら、今から新鮮なのを捕りに行ってくるニャ!
(里☆1 カジカ)
魚には栄養がたーっぷり含まれているのニャ。
体は食事から作られるニャ! 魚で丈夫な体を作るニャ!
(里☆3 カジカ)
足りないなら今から捕りに行くとまで言ってくれる、この手厚いサービス精神です。ハンターの狩猟にせよ里守の百竜夜行の防衛にせよ、各々の身体が何よりの資本ですから、みんなの食を支える仕事は非常に重要な役割。砦への遠征のときにも、彼は「皆に魚を食べて気合入れてもらう」と張り切っています。
ただ、魚が栄養たっぷりで食べると健康になるという事自体はまったくその通りなのですが、あまりにも魚のことしか頭にないことが災いして、彼はちょっとおもしろシーンを生み出していたりもします。
ヒノエさんが龍と共鳴しちゃったって聞いたニャ……。
ヒノエさんは、いつもウチの魚をいっぱい食べてくれてるのニャ!
それでも体調を崩すニャんて… きっとすっごく大変なことに違いないのニャ…!!
またあとでお見舞い持ってくニャ。どの魚がいいかニャ?
(集会所☆4 カジカ)
病人のお見舞いに魚という大胆なセレクト。しかもヒノエの具合がどれだけ悪いのかということを、「うちの魚をたくさん食べてるのに体調が悪いということはそうとう深刻なのだろう」と、あくまでも魚基準で考えるところがまた魚屋らしい思考です。
いちおう、より正確に申しますと、ヒノエは古龍と共鳴していて苦しいということであって病気という訳ではないのですが、いずれにせよ体調が悪くて家では寝込んでいるであろうところに生魚を持ってこられては、さすがのヒノエも少し困惑を禁じ得ないところでしょう。現代の私たちの世界で例えると、自分が入院している病室に友達がメロンでも花でもなく魚を持ってきた、ということになるわけですし…。
まあ、そういう魚一筋の清々しさが逆にカジカらしくておもしろいということで、元気を出してもらえるかもしれません。ヒノエは割とすぐに食欲は普段通りに戻っているようなので、その時にカジカのお魚も食べてもらえたのではないでしょうか。
そして決戦に挑むハンターさんを応援するときも、やはりカジカは魚絡みの台詞になります。
古龍なんて大したことないニャ! 普段、魚を食べてる○○なら簡単に討伐できるニャ!
魚は目にいいから、攻撃をよけられるニャ! 魚は骨にいいから、ケガしないニャ! えっと…あと…。
…とにかく! ○○は魚の力で古龍を倒すのニャ! がんばるのニャ!
(淵源討伐前 カジカ)
こういう局面においてなお 魚 >古龍 を1ミリも疑わないところはさすが敏腕の魚屋、その辺は徹底しています。気の強いカジカに「魚食べてるし楽勝!」と言ってもらえると、何だかつがいの古龍も本当に大したことなさそうに見えてくる……のかはわかりませんが淵源のマキヒコはマジで大したことないけど、決戦を前に彼のポジティブさを分けて貰えた気になりますね。
それから、少し脱線になりますが、古龍の話でいうと、イブシマキヒコやナルハタタヒメの影響はモンスターたちのみならず普通の生物にも影響を与えているらしい、ということをカジカの会話から知ることができるんですよ。ナルハタ出現後のカジカの台詞がこちら。
ヨッ! ○○! いや~、最近調子がよくてニャ!
川に飛び込めば、魚の方からオイラに寄ってくる勢いだニャ! 大漁大漁! ニャハハハハ!
ほらほら! ○○にもわけてやるニャ!
狩りに行く前にしっかり食べるといいニャ!
(集会所☆7 カジカ)
☆6でイブシマキヒコを撃退し、☆7昇格でナルハタタヒメが姿を現したタイミングでこの台詞が聞けるということは、この魚たちの様子の変化が古龍の影響であると言える可能性は十分にあるでしょう。すなわち、「モンスターたちが古龍の威風に追い立てられているのと同様に、魚たちも古龍から逃げるように一定方向へと移動してゆくようになったため、カジカは立ち止まって待っているだけでも次々に魚が自分のところに舞い込んでくる」……という理屈です。
つがいの古龍は「モンスターの群れを追い立てて百竜夜行を発生させる」という特徴がとりわけ強調されていましたが(もちろん、カムラの里としての一番の懸念点なのでその認識は当然なのですが)、自然界全体でいえば古龍の影響はいわゆるモンスターに対してのみならず、広く生物一般に対して及ぶものである、という世界観を補足してくれるという点で、カジカのこの台詞は地味ながら非常に重要なものだと思います。
そしてカジカの方も、図らずも地の利を生かして売り上げを伸ばした形になっているわけですから、ホバシラが小声で教えてくれた「百竜夜行は100%悪いことだらけではない」という言葉がここでまた思い返されることになりますね(もちろん、百竜夜行自体は止めるに越したことはないのですが)。商売とはなかなか複雑なものです…。
そんなわけで、商売のテクニックにも精通したカジカのストイックな仕事ぶり、そして魚の力で皆を健康にしたいという彼のサービス精神をここまで見て参りました。カムラの里が強者揃いであるというのはよく知られた話ですが、狩猟のみならずビジネスについても一流の人材を擁しているとは……カムラの里の底が知れません。
③元は茶屋、今は雑貨屋で働くマイド
さて続いては、集会所で雑貨屋をやっているマイドさんのご紹介。
私は、もとは茶屋で働いていたニャ。主に仕入れやなにやらの会計係をしていたのニャよ。
でも、集会所の人手が足りないってことでオテマエさんに直々に頼まれて 雑貨屋をやることになったニャ。
茶屋では、オテマエさんに指示をもらってみんなでやってたニャけど、雑貨屋は私ひとりでやらなきゃいけないニャ。
責任重大だニャ。大変だニャ。でも、これも楽しいニャよ!
(集会所☆1 マイド)
マイドは元々茶屋の会計事務を務めていたようで、雑貨屋の仕事に移ったのはおそらくここ最近のことのようですね。顧客の需要を把握して過不足なく仕入れを行ったり、店の収支を正確にまとめたりというのは経営の核とも言える部分ですから、その点の手際の良さをオテマエさんんに見出されて雑貨屋を任されたということなのでしょう。
これまで組織の中で上司の下で働いていた人が、裁量権を渡されて一つの事業を進めていくことを任ぜられるというのは、自分で考えながら仕事ができてやりがいがある反面、思考の労力や責任も増大するため色々と大変な部分も多いでしょう。
もちろん、マイドの能力であれば十分にやっていけるだろうと確信があったからこそ、オテマエも安心して雑貨屋を任せているのです。マイドの働きぶりについてのオテマエの評価がこちら。
雑貨屋のマイドは、元々うちの店の子ニャ。集会所の人手が足りないから、今は雑貨屋をやってもらってるニャ。
金勘定もバッチリできる、とってもしっかりした子だからニャ。安心して店を任せられるニャ。
…ちょーっとだけ口が軽いのが玉に瑕かニャ。フフ。
ちなみに、うさ団子についてはわりと甘さ控えめなものが好きなのニャよ。
(集会所☆2 オテマエ)
オテマエはカムラの里の茶屋を取り仕切っている事業主のようなポジションですから、茶屋で働いていた時は仕入れと経理を担当していたマイドは、いわばオテマエの右腕、茶屋のNo.2とも言える存在だったといえるでしょう。
この経緯を知っている集会所案内人のハナモリからも、マイドの働きぶりは太鼓判を押されています。
集会所の雑貨屋をやってるのはマイドさんだよ。ほら、ミノトさんの隣。
昔は茶屋で働いてたんだけど、商売の才があるのをオテマエさんが見出してさ。
ちょうど集会所の人手が足りなかったこともあって、雑貨屋として独立したんだよ。
いつもチャキチャキ働いてて、なんていうか、商売人! …って感じだよな。
(集会所☆3 ハナモリ)
マイドが雑貨屋に移って以降、仕入れ業務はオテマエが自分で担当しているようで(後で茶屋の人たちの記事も書く予定なので、そこで改めて触れる予定です)、元々の仕事量も多いのにさらにマイドがやっていた仕事を他の従業員でやっていくわけですから、茶屋の業務もなかなか大変な様子。仕入れや会計事務といった重要な仕事をバッチリとこなしてくれていたマイドの存在は非常に大きかったということになりますね。
同じくカムラの里で雑貨屋をしているカゲロウも、マイドの手腕を高く評価しています。
ちなみに、少しだけ口が軽いという性格は作中ではさほど目立ったものではなく、該当することといえば、小さい頃のミノトが人見知りでいつもヒノエの後ろに隠れていた、というエピソードをハンターさんに教えてくれたり(ミノト記事参照)する程度です。当のミノトからすれば、彼女が姉を溺愛しているというのは周知の事実ですからこれもただの笑い話で済むことかもしれませんが、もしかしたらちょっぴり恥ずかしい思い出話かもしれませんね。
ところでまた少し脱線しますが、オテマエの頼みでマイドが茶屋から雑貨屋に移った、ということは、それらの販売事業は管轄が同じであり、かつそれらの事業全般の人事裁量権がオテマエにある、ということなのでしょうか。オテマエの「集会所の人手が足りない」という台詞から見ても、それらが別々の管理体制という訳ではないように思います。
カムラの里の集会所で行われている事業は大きく3種類に分けられます。1つ目はミノトやウツシが受け持っているクエスト及び闘技大会の受付業務、2つ目はナカゴとコジリが受け持っている武具の加工、3つ目は茶屋や雑貨屋のハンター向けの販売。
まあ大別すればこうなるということなので、厳密に言えばウツシ製作のモンスターのお面や生活雑貨のようにハンターだけが対象ではない販売品もありますし、茶屋に関してもハンターだけでなく誰でも食事ができますし、その他植木職人のハナモリが集会所の案内人を兼業しているとか、主人公ハンター向けにルームサービスがいてくれるとか、全体のマネジメントにゴコクがいるとか色々あるのですが、ざっくり分ければ上記3種類に分けられます。
このうち茶屋と雑貨屋に関しては、仕事内容だけ見れば別の事業なのですが、ハンターズギルドの規定として、「ハンター達の拠点となる場所には食事の提供と狩猟道具の販売の機能をかならず設置すべし」という決まりがあってもおかしくないでしょうし、仕入れや収支の管理は別々であるとしても、販売部門の人事面の管理は一括で行っていると見てよいと思います。
より正確に言えば、クエスト受付・販売・加工のいずれにも人員不足が出てしまうと集会所機能が失われてしまうため、おそらくは茶屋と雑貨屋のみならず、集会所の業務全体の人事は(おそらくゴコクあたりが)まとめて管理しているのでしょう。その中で、販売部門内ではオテマエに裁量権がある、という形なのだと推察しています。オテマエの台詞一つの中に、集会所の経営についてこんなに推察が捗るものがあるとは驚きですね。
まあ、あくまで推測の範囲なので、本当にそんな組織体制になっているのかどうかは作中ではわかりませんし、そもそもそんな細かいところをやたらと掘り下げて筆者は何がしたいのかとツッコまれるとぐうの音も出ないのですが……。でも、ハンターとして拠点を利用するだけじゃなくて、こういう拠点づくりなども自分でやっていけるモンハンがあったら楽しそうですよね。
マイドが雑貨屋に移ったのは、おそらく前に雑貨屋を務めていた誰かが別の仕事に移るなりしてしまったため、その後任ということなのでしょう。こういう人手不足も百竜夜行が少なからず遠因となっているのか、それとも別の理由なのかはわかりませんが、今まで上司の下で同僚たちと一緒に働いていたのが急に一人で商売をすることになるというのは、マイドもなかなか大変な状況にあります。それでもなお、自分の置かれた場所にやりがいを見出し、創意工夫をしながら楽しんで仕事をしている姿には大いに見習うべきところがありますね。
④商品を買いたくなる売り文句
さて、そんなマイドの能力の高さはオテマエからの信頼も厚く、ある時オテマエは新作うさ団子のキャッチコピーを考えて欲しいとマイドにお願いをします。
あ、○○さん、まいどニャ! 今、オテマエさんに頼まれて新しいうさ団子の売り文句を考えてるニャ。
ヒノエさん大絶賛だったらしいから、その要素を、と思ったけど… ヒノエさんはどんなうさ団子も大好きニャ。
正直、あんまり売りにならないニャね…。なにかいい考えはないもんかニャ。
(集会所☆5 マイド)
言われてみれば確かに……。うさ団子を食べるプロであるヒノエから高い評価を貰えたお団子、という触れ込みなら皆の食指が動きそうなものですが、なまじ彼女はあらゆるうさ団子を愛していますから、その新作団子がいかにすごいかという事はあまり効果的にアピール出来ていないような気がしますね。
仮に「ヒノエさんがNo.1と認めたうさ団子」のように更に強調して書こうものなら、当のヒノエの方から「うさ団子に順位は付けられません!」と言われてしまいそうですし……元来ヒノエはなんというか、うさ団子の「熱狂的ファン」「トップオタ」という感じで、「評論家」という気質ではないと思いますから、ヒノエが褒めていたということをアピールポイントにするのは客観的に見てもなかなか難しそうです。
ところで、上記のように「○○が絶賛!」といった売り文句で買い手に訴えていく手法は、「人は権威性に弱い」というマーケティングにおける心理学らしいのですよ。
「ミシュランで一つ星を獲得!」「○○年日本ゲーム大賞を受賞した名作!」「一流モデルの○○も使っている化粧品!」「ハーバード大学の脳科学者が認めた勉強法!」といったような触れ込みを、誰しも一度は目にしたことがあるでしょう。
私たちはミシュランの事を「すごい」と思っています。そのミシュランがあるラーメン屋さんに星を与えていたら、私たちはそのラーメン屋さんのことを「あのミシュランが認めたんだからきっとすごい店なんだろう」と思います。
ある商品やコンテンツの価値が高いことを「誰もがすごいと認識している、有名で専門知識がある人・機関・賞に評価されている」という仕方で説明すること、専門家や有名人という権威を背後に見せることでその物の価値に権威付けをして、大衆の購買意欲を引き出す、というのが権威性の心理学なんですね。
じっさいのところ、「あのラーメン屋さんはスープのダシに○○で採れた△△という貴重で美味しい魚を使っていて……」と、その物の価値を理屈で説明されるよりも、「あのラーメン屋さんはミシュランに星をもらってるんだぜ!」と言われた方が、直感的にそのすごさがわかりやすいです。
その商品の分野について専門的な知識があり、理屈で説明された方がよい、と思えるのはそれはそれで素晴らしいことですが、そういう説明に食いついてくる買い手の割合は全体のなかでは少数であることが多く、「ミシュラン」などの権威を背後に見せて商品のすごさをアピールしたほうが、遥かに多くの人に食いついてもらえる売り文句になるでしょう。ここではミシュランを例にしましたが、ミシュランや学会、学者の先生のような文字通りの権威でなくとも、「人気の有名人が」といった触れ込みでも、権威性としては十分です。
権威ある人や機関が認めているという情報が与えられれば、私たちはしばしば、その商品が具体的にどう素晴らしいのか、どういう仕組みでどういう利点があるのかいうことをあまりよく知らなくても、無条件にそれを「あの○○がすごいと言っているのだからすごい」と認識します。それはある種の思考停止とも言えるもので、使う状況を間違えると恐ろしいものでもありますが、効果的に用いれば顧客に強烈な第一印象を与える売り文句を作ることができ、売り上げアップにつながる心理テクニックなのです。
ちなみに、モンハンライズの世界観でいえば、「カムラの里を災禍から救ったハンター」というのは強力極まりない権威性でして、風神やら雷神やらを討伐したハンターさんの名前は各所からひっぱりだこです。
まずはイブシマキヒコ百竜夜行の撃退後、魚屋のカジカから。
ヨッ! ○○! イブシマキヒコをしっかり追い払ったらしいニャね!
やるニャ、さすがニャ! ほらほら、もっと大きな声でみんなに言うニャ!
オイラの力をいっぱい食べて、こんなに強くなったニャ! って!
(集会所☆6百竜後 カジカ)
つづいて修練場管理人のセキエイから。
雷神龍、ナルハタタヒメを倒した○○さんは語るニャ。
「雷神龍を退治したとき ふいに脳裏に浮かんだのは、修練場での特訓の日々でありました」
そんな風に、ハンターズギルドに宣伝とかしてくれると嬉しいなぁとか思ったりするニャ。
(雷神討伐後 セキエイ)
そしてもちろん、雑貨屋のマイドからも。
いらっしゃい、いらっしゃい! 里一番のハンター○○さん御用達の雑貨屋は、ここだニャ~!
おっ、○○さん! いいところに来たニャ! ほらほら、今日も何か買っていくニャ!
それを「○○さん愛用品」って札を付けて売り出すニャよ~! ニャハハハハ!
(ドス古龍討伐時 マイド)
余談ですが、筆者(しーな)が雑貨屋で買っている量が多い商品はたぶんLv3通常弾、Lv3散弾、Lv3火薬粉、強撃ビンあたりなので、私の世界線でのマイドの雑貨屋にはおそらくその辺りの商品に「しーなさん愛用品」の札がついていると思います。やたらとガンナー推しの雑貨屋とはいったい……。
それから、権威性の話とは微妙にずれますが、こんな話も聞くことができます。
百竜夜行から里を救ったことで、○○さんの評判はうなぎのぼりだニャ。
今度、うちの店で○○さんの手形と署名を付けて売ろうかと思うんだけど、どうかニャ?
……と提案したら、周りにあまりいい顔をされなかったニャ。やっぱりこういうのは商売にしてはいかんのかニャ。
(淵源討伐後 マイド)
もはや「○○さん愛用品」どころか、がっつり手形を売ろうとしています。それにしても手形とはまた古典的な……というか、手形が商品になるのは力士くらいだと私は思っていたんですが、ハンターの手形でも商品になるのかは気になるところです。とはいえ、アイルーやメラルーの落とし物に「肉球のスタンプ」というアイテムがあるのを見るに、手形というのはアイルー界隈では非常に価値があるんでしょうね。
ちなみにマイドのこの手形の話については、オトモ広場管理人のシルベからも同じようなセリフを聞くことができます。
○○さん! ○○さんだニャ!
いやー、○○さんはすっかり里の英雄だからニャ。今のうちに色紙でも書いてもらおうかニャ。
名前と、座右の銘と… あ、手形とかもどうかニャ。将来、すごい価値がでそうだニャ!
(ドス古龍討伐時 シルベ)
シルベは仕事が直接の商売ではなく、物の価値がどうこうみたいな商売っ気のある話はあまりしないタイプだと思っていたのでこの台詞は意外だったのですが、彼の内にも実は秘めたるそういう気持ちがあるのでしょうか。まあ、本気にしている風ではないですし、遠回しにハンターさんへの誉め言葉という形で、ジョークとして言っている感じがしますね。
仮にシルベとマイドの間で「ハンターさんの手形ってヤバくね?」みたいな会話が行われていたとしたら、その場では軽い冗談で言っていたのを、あとでマイドがついつい商売っ気が出てしまって「手形ってどうかニャ~?」と周りに言ってしまった、という可能性もなくはないですね。この場合は、マイドは少し口が軽いという性格のエピソードということにもなりますし。
また、自分のアイデアを独断専行で進めず周囲に相談し、止められた場合は潔く断念するというプロセスをきちんと踏んでいるという点では、引き際をよく心得た仕事ぶりであるとも言えるのかもしれません。
ところで、ハンターさんの名前なり何なりを自分の店のキャッチコピーに使いたい、をという話をしてくるのがみんなアイルーであるというのは、果たして偶然なのでしょうか。ひょっとするとアイルーのネットワークでは、セールスやマーケティングのテクニックが現代相当まで発達しているという可能性も、決して否定できるものではありませんね。
ハンターさんとしても、実際に皆に助けてもらったおかげで風神雷神を倒せているので、「カジカの魚屋の魚を食べていたおかげです」みたいなのは全然嘘ではないですし、むしろ今後また里への客足が増えるにあたって、彼らも効果的にお客さんを取り込む術を色々と練らないといけませんから、これからが勝負所の彼らに少しでも力になりたいところです。
まあそれでいうと、里の皆の協力があっての風神雷神の討伐ですから、ハンターさん一人の功績をというよりは里の団結をこそ本当に誇りとしたいところなので、「里の英雄の手形」みたいなのは逆にちょっと皆に申し訳ないかなぁ~。……だからといって、「じゃあ大きな紙に里の人全員の手形を押せばいいんじゃね?」みたいな話になると、それは学校の卒業記念でやるやつか、見方によってはホラーということになりかねないのですが。いやー難しいね。
話を戻しまして、茶屋から雑貨屋へと仕事を移って頑張ってきたマイドは、師匠であるオテマエからもその仕事ぶりを大いに褒められています。
○○さ~ん! まいどニャ! ちょっと聞いてくれるかニャ!
この間、久しぶりにオテマエさんとゆっくりお話したのニャ。雑貨屋頑張ってるねってほめられたニャ!
店は移ったけど、私に商売のなんたるかを教えてくれたのはオテマエさんだからニャ!
認めてもらえたみたいでなんだか幸せな気分ニャ! もっともっと、商売繁盛だニャ~!
(集会所☆6 マイド)
茶屋を離れ、自分一人できちんと出来るかどうか不安がある中で雑貨屋をやってきたマイドにとって、商売の師匠たるオテマエから高い評価を貰えるのはこの上なく嬉しいことでしょう。人手不足で各人が新しい仕事に取り組み、その分だけ一人ひとりの仕事への責任感が一層求められている状況下で、たとえ自ら選んだわけではなくとも自分の請け負う仕事にやりがいを見出し、積極的にアイデアも出しながら一人前に仕事を務めているマイドの姿勢には頭が下がります。
そして、カジカ、マイドを筆頭としたカムラの里のアイルーたちの商売への姿勢は、その並々ならぬ信念のみならず、現代の我々の世界でも有用と認められているような非常に発達したセールスやマーケティングの技術によっても裏打ちされているものであることをここまで見て参りました。
こうしたノウハウがアイルーのキャラのお店に顕著なのは、これがアイルー種族の中で特に発達し共有された商売の知恵ということなのか、それとも単なる偶然に過ぎないのかはわかりませんが、少なくともカムラの里で店を経営するアイルーたちは、いずれもビジネスに関して一流の才幹があることは確かな事実。いやはや素晴らしい限りです。商売という戦いにおいても彼らは戦闘民族だった、ということなのでしょうか…。うまいこと言おうとして言えてない。
それから、今回はご紹介しませんでしたが、マイドの師匠であるオテマエもこれまたとてつもない器量を備えたビジネスパーソンでして、そのことについても茶屋で働いているヨモギ、シラタマ、キナコたちと共に茶屋の記事の方で紹介していきたいと考えておりますので、よろしければそちらもぜひお楽しみに。